三村壮太郎のレインタイヤ無交換作戦

雨中決戦となった第7・8戦SUGOでは、とんでもない作戦を実行した選手がいた。三村壮太郎だ。彼のとった前代未聞の作戦とは、第7戦で使ったレインタイヤを第8戦でも継続して使用することだった。

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コンディション次第では中古タイヤは有利に働く

レインタイヤはドライタイヤと違い、必ずしも新品タイヤの装着がベストだとは言えない。新品タイヤはその溝の深さゆえ、コーナリング中にトレッド面がよじれ、操縦性の悪化や異常な発熱を引き起こす場合があるからだ。それは特に雨量が少ない場合に顕著に表れ、新品タイヤよりも中古タイヤを使用したほうが速いという現象が起こる。例えば、これまでずっとドライで走れていたが、決勝を直前に雨が振り出し路面が軽く濡れてしまったような状況の場合、中古タイヤで決勝レースに挑んだほうが上位入賞する可能性が高い。

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SUGOでの日曜日における朝一番のコンディションといえば、雨はパラパラとした降り具合でさほど強くはなく、第7戦予選の時も同様だった。このため、数名のドライバーが朝一番の公式練習で使用したタイヤをそのまま予選に持ち込んでいた。全くの新品でレースに挑めばスタート直後のグリップが不足してしまうからだ。地元ドライバーの西村拓真は公式練習で皮むきを行ったタイヤを使用していたこともあり、4番手スタートから4周目にはトップに立ち、序盤に独走態勢を築き上げた。

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KF第7戦予選レポート

第7戦決勝後の消耗具合

結果から見るに、第7戦予選のような雨量の少ないコンディションではBSタイヤは有利な状況にあった。これはレース当日の路面コンディションが変化していく中で明らかになったことである。それに対して、YHタイヤは雨量が増加すればするほど強みを発揮した。正確に言えば、他社タイヤを使用するドライバーは雨量の増加に伴いタイムを落としていく中、YHだけがベストタイムを維持したまま走行していたのだ。このヘヴィーウエットでの強さのおかげで、第7戦予選では小高一斗が10位、三村壮太郎は14位フィニッシュに終わったが、周回を重ねるごとに雨脚が強くなった第7戦決勝では小高一斗の独壇場となった。最終的には小高一斗の単独スピンもあり、1位佐々木大樹、2位三村壮太郎、3位小高一斗という結果にはなったが、仮に予選から雨量の多いコンディションであったならば、YHの二名が1位2位を獲得できたことはほぼ間違いない。

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第7戦決勝終了直後の三村のリアタイヤ

さて、そんな3位表彰台を獲得した直後の三村壮太郎のマシン右リアタイヤを見てみると、非常にきれいな状態のままレースを走り切ったことがわかる。コースレイアウトから言って右リアタイヤの消耗が激しいSUGOで、予選決勝のあわせて45周を走り切ったタイヤとしては素晴らしい耐摩耗性能だろう。

KF第7戦決勝レポート

YHレインタイヤの課題:初動の悪さ

ところで、YHはレインでの優位性を持ちつつも、とある課題も抱えていた。新品タイヤでの初期グリップの悪さだ。これが顕著に表れたのは茂原大会での土曜日の公式練習。タイムそのものは小高一斗が一番時計を出したのだったが、他社に比べるとタイムの上がり方が悪かった。この問題があり、茂原大会でのTTでは、YHの2名は公式練習で使用したタイヤを継続使用してアタック。ただこれは、翌日の日曜日が晴れ予報となっていたため、TTのみを考えてのタイヤ選択であった。

茂原 KF土曜日公式練習レポート

この初動の悪さは少なくともSUGOの段階ではさほど解決できなかったらしい。SUGOでのレースウィークにYH開発陣に話を聞いたが、事前のテストにおいても新品タイヤよりも中古タイヤのほうが良いフィーリングで走れたという。土曜日に行われたタイムトライアルはドライコンディションであり、そこでは三村壮太郎が20位、小高一斗は22位に終わっている。天候は不安定だが路面状況は横ばいであり、三村壮太郎はこのまま第8戦予選に挑んでも厳しい戦いになると考えたか、あるいはヘヴィーウエットであれば勝機があると考えたか、ここで通常ではありえない選択を取った。それが”第7戦で使用したレインタイヤを第8戦でも使用する”ことだった。

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第8戦予選スタート前の三村壮太郎のタイヤ。第7戦で使用したタイヤそのものだ。

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小高一斗は新品タイヤを選択。

スタート時点では雨は完全に止んでしまったが、直前まで弱い雨が降り続いていたため路面にはウエットパッチが残り、またマシンが走ればウォータースクリーンが立ち上がる状況下で開始された第8戦予選。ここで小高一斗がレース序盤に苦しむ中、中古タイヤの初動の良さを存分に発揮させた三村壮太郎は20番手スタートながら3周目にして6番手までジャンプアップしていた。しかしながら雨は止みマシンが走ることで路面は次第に回復していき、次第に苦しくなってきた三村壮太郎は上げた順位を維持することができず7番手でフィニッシュ。小高一斗は10番手だった。

改良の余地が残されていることの証明

第8戦決勝では再び小雨が降りだした。しかし第7戦決勝のようなヘヴィーウエットではない。このコンディションがBS、YHのどちらにとって有利なのか、これが勝負の明暗を分ける戦いであった。結果的にはBSとYHにとって互角となるような状況か、あるいはBSタイヤの消耗もありほんのわずかにYHに有利に見えたが、勝利したのは序盤から独走態勢を築き、小高一斗の猛追を交わした佐々木大樹だった。中古タイヤで走り続けた三村壮太郎は28周のレース中16周目からガクンとタイムを落とした。雨量が少なく想定以上に消耗してしまったため、レインタイヤが性能を発揮できなくなったのだ。3位に上がった大草りきからじりじりと離され、前代未聞の挑戦を行った三村壮太郎はこの決勝レースを4位でゴールしたのだった。

KF第8戦決勝レポート

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その決勝終了後の三村壮太郎のタイヤがこれだ。KFレースを2戦、フォーメーションラップを入れると90周以上を走り切ったとは思えないほどに状態がいい。しかし発熱を促進させるために刻まれていると思われる横方向の狭い溝が一部消えてしまっている部分があり、これにより16周目以降の急激なタイムダウンが起こったのではないかと推測される。これにより、多少雨量が少ない状況であってもYHレインタイヤはSUGOを80周程度は全力で走り続けられる性能があることが証明された。逆にもし雨量が多ければ、他社がついていくことができず、また同じYHでも新品タイヤを履いた小高一斗よりも初動もフィーリングもいい状態で走れたため、三村壮太郎が優勝した可能性も十分にあっただろう。

しかしそもそもKFは耐久レースではなく、第1、第2レースでタイヤ交換が可能であるから、ここまでの耐久性が必要なのかは甚だ疑問である。TTと合わせてもせいぜい50周ほど持てば十分であり、また新品状態での感触が良ければ三村壮太郎がこのような作戦を取ることはなかった。すなわち、このYHタイヤにはまだまだ改良の余地が残されていることが同時に証明されたのだ。

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佐々木大樹 第8戦決勝直後のタイヤ(BS)

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澤田真治 第8戦決勝直後のタイヤ(DL)

比較として優勝した佐々木大樹(BS)、DL最上位フィニッシュとなった澤田真治の右リアタイヤを見てみよう。KFのレインタイヤはワンメイクではないため、新品状態での溝の深さが同一ではなく、そこだけを見て比較することは難しい。ただ、BSは明らかに消耗が激しく、3社の中では最も柔らかいゴムを使用しているのか表面も荒れている。第8戦予選をトップでゴールした名取鉄平は予選終了時点で明らかにタイヤを使いすぎていたし、その他BS勢も消耗は激しめで、少々取り扱いが難しいスペックとなっていたように思われる。対してDLレインタイヤは、圧倒的な強さを見せつけた瑞浪大会の時と同様に消耗が少ないが、その時よりは減っているように見える。SUGOでのDLタイヤは最後まで安定してタイムを刻んではいたが他社よりもグリップ力に劣り苦戦していたため、スリップ量が多い分だけ消耗したのだと考えられる。

スリックタイヤでは最終戦鈴鹿では悲願の表彰台を獲得したとはいえ、依然他社よりも対応できる幅が狭く多くの課題を抱えるYHだが、レインタイヤでは多くの状況に対応できる強みを持っている。それに対しBSはコンディション変化には弱かったもののピンポイントでの速さがあり、そしてDLはドライ・ウエットともにSUGOでは苦しんでいる様子。来年はカテゴリーがOKに代わり、さらなるハイスピード化を迎えることとなるが、そこでのレインタイヤはまた変化してくるのだろうか。各社の進化に期待したい。

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