2017全日本カート選手権フェスティカサーキット瑞浪大会は波乱のレースウィークを経験することになった。連日夕方以降に瑞浪周辺は猛烈な雷雨に襲われ、金曜日の深夜に土砂災害警報が発令。サーキットのすぐ近くを通る中央自動車道のほか、サーキット周辺道路の一部が土砂崩れにより通行止めになるなど大きな被害が発生した。サーキットスタッフの懸命な働きによって土曜日の午後から練習走行が再開され、レースは急遽1day開催となりながら、とても急ごしらえのスケジュールとは思えないほどスムーズに進行していった。全日本FS-125クラスのゲートクローズ時間までは。ここでまさかの12名ものドライバーがゲートクローズに間に合わないというトラブルが発生、さらにOKのグリッドに誤りがありスケジュールは1時間半も遅れ、どうにかレースを終了させたかと思いきやOK第6戦の結果は揉めに揉め、正式結果が深夜に発表される事態となった。Paddock Gateはこれについて関係者各位に取材を行ったが、そこで見えてきたトラブルの原因は驚くべきものだった。
全日本FS-125で12台がDNS、スケジュールが1.5時間遅れた原因とは
全日本FS-125決勝ヒートのグリッドは混乱していた。午後からのスケジュールがタイスケ通りに消化されず遅れてしまったことを一因として、なんとエントリー台数34台の内12台ものマシンがゲートクローズの時間に間に合わず、決勝ヒートを走ることができなかったのだ。さらにOKのグリッドが間違っていたこともありスケジュールは最大1.5時間もの遅れとなってしまい、OKのレースにも大きな影響を与えた。それぞれのトラブルにはどのような原因があったのだろうか。
あらすじ
- 午後からのスケジュールが徐々に遅れだす
- タイムスケジュールの変更はないため、定刻通り15時25分に全日本FS-125のゲートクローズが行われる
- 12名のドライバーがゲートクローズに間に合わず、出走できなくなる
- ゲートに間に合わなかったエントラントが、コントロールタワーへ苦情(≠抗議)を入れる
- 審査委員会の温情により、12名のドライバーはゲート内に入ることが許される
- 正規の時間にゲートを通過したエントラントから、時間に間に合わなかったドライバーがゲートを通過したことに対して抗議が提出される
- 抗議の結果が出るまで時間がかかる為、OK第6戦決勝を先に行うことが決定される(16:15頃)
- OKがグリッドに並んでいる最中、OK第6戦予選でフロントカウルペナルティを受けたドライバーから、自分のグリッドが降格されていない旨が申告される
- OKのグリッドを作り直す必要が出たが、ルール上グリッド発表からレーススタートまで30分以上の時間が必要なため、全日本FS-125の決勝レースを先に行うこととなる
- この間に全日本FS-125のゲートクローズに間に合わなかったドライバーは出走できないことが決定され、16時55分から12台がグリッドにいない状態で全日本FS-125の決勝が行われた
スケジュールは厳格に
さて、間違いなく問題なのはスケジュールに遅れた12名のドライバーである。彼らはいったいなぜ出走できなかったのか。これには現場で遅れたドライバーの関係者と思われる人たちが様々な発言をしていたが、これについて筆者が調べた範囲で答えていきたい。
声が上がっていたことの一つに、「ゲート前に人があふれていたため、並んでいても入れなかった」という発言があった。残念ながらゲートクローズ時刻に筆者はゲート前にいなかったため目撃していないのだが、現場にいた人物からはゲートクローズのタイミングでは誰も並んでいなかったという証言が参加者から得られた。むしろゲートクローズ後に慌ててやってきたエントラントによってゲート前が渋滞した、というのが目撃人の認識であった。
そして最も声が大きかった意見は、「スケジュールが大幅に遅れていたのにリスケジュールが発表されなかった」ということ。では実際にスケジュールがどの程度遅れていたのかを確かめるため、日曜日のタイムスケジュールと、リザルトで発表されているレースのスタート・フィニッシュ時刻を比べてることにしよう。
各クラスの下に記載しているものが実際のレースのスタート・フィニッシュ時刻、また赤い文字で記載したのが予定時刻からの遅延時間(単位は分)である。リザルト上のレースのスタート時刻というのはレッドシグナルが消灯したタイミングであり、タイスケ上のスタート時刻はダミーグリッドから発車する時刻であるため、ここには1~2分の差が生じる。
まず不自然なのは、FP-Jrがほぼオンタイムでスタート・フィニッシュしたにもかかわらず、OK予選ヒートの開始時刻が11分遅延(※筆者が確認した限り、OKがグリッドから出走した時点では9分の遅延であった)している点。フェスティカサーキット瑞浪は車検場と表彰式の場に少し距離があり、他クラスを含めここでの移動に時間がかかる選手が多かったように見受けられた。実際ここでは「スケジュールが遅れているためOK予選ヒートのスタートをホームストレート上で行う」という旨のアナウンスが行われ、FP-Jrの表彰式インタビューをトップの選手にだけ行うこと(他クラスでは上位3名にインタビューしていたので、この対応には問題があったと考えるが)でスケジュールの遅れを若干取り戻していた。
【9月13日追記】OK予選ヒートのゲートクローズが14時35分に対し、スタート時刻が14時30分になっている。これも後述するタイムスケジュール作成ミスの一つであり、正しいスタート時刻は14時40分でなければならない。もし正しく記載されていれば、OK予選ヒートのスタート時刻に遅延は無く、FP-Jrの表彰式インタビューは上位3名に行うことは可能であった。
そうしてFP-3のスタート時点で+10分の遅延にまで取り返したものの、次の地方FS-125のスタート時刻は突如+19分の遅延となる。いったい何があったのか。実は何もなかったのだ。ここで一つ考えてほしいことがある。全日本カート選手権の各クラス決勝ヒートはローカルレースよりも長い周回数で戦われ、レース時間はおよそ15分間である。ダミーグリッドで整列する時間に3分、暫定表彰式に5分が必要だとすると、少し余裕を見て1クラスに対し25分の時間を与えればスムーズにレースが進行できるはずだ。さて、これを踏まえてタイムスケジュールをもう一度確認してみよう。
おわかりいただけただろうか。レーススタートから次のクラスのゲートクローズまでの時間が、FP-3と地方FS-125だけ15分しかないのだ。つまり仮にFP-3がオンタイムでスタートしたとしても、地方FS-125が終了する頃には自動的に20分の遅れができてしまう。これはタイムスケジュールの明らかな作成ミスである。そもそも本来のスケジュール(2day開催)ではOK決勝のスタート時刻は16時15分であり、1day開催になったのにこれよりも早くスケジュールが進行するのはおかしいと、誰かが気づけなばならなかった。実際のところFP-3のスタート時点で10分の遅延があったため、特にトラブルがなかったとしても全日本FS-125のスタート時刻は30分遅れていたはず。彼らは地方FS-125のレースが始まる前にはゲート内にいなければならなかったのだ。
ではタイムスケジュールがそもそもおかしいのだから、12名ものドライバーが遅れても仕方がないのだろうか。残念ながら筆者はそう考えない。レースの進行というものはいつだって天候やレース展開に大きく左右され、スムーズに行われることもあれば大幅に遅れることもある。ルールには確かにフォーメーションラップの5分前に待機場所への進入が締め切られるとある(後述)が、その「5分前」とは一体いつなのかを明確にするために便宜上タイムスケジュールというものが提示されている訳であり、全ての参加者はこれに従う必要がある。実際にFP-3も地方FS-125も、そして全日本FS-125がスタートすらしていない中OKクラスも全車がタイムスケジュール通りのゲートクローズ時刻までに待機場に入っている。遅延があったFP-3からOKまでの全85台中、時計やタイムスケジュールを見ていなかったのはこの12台だけだったのだ。リスケジュールが発表されていないからと言って、彼らだけに遅れてもいい理由があるとは考えられない。
審査委員会が認めても、抗議があればひっくり返る
次の問題は審査委員会(JAF)の対応だ。スタート前のゲート(待機場所)について、2017年全日本カート選手権統一規則にはこのように記載されている。
第29条 スタート進行
2.スタート進行は以下のように行われる。
2)所定の待機場所への進入はフォーメーションラップ5分前に締め切られ、「3min」ボードが示されるまでにカートが所定の場所に着いていなければならない。審査委員会が認めた場合を除き、5分前までに所定の待機場所に進入できなかったカートの出走は認められない。
なぜ本来なら出走できないはずの12台が一度ゲートを通過できたのかと言われれば、この”審査委員会が認めた場合を除き”という例外に当てはまったためである。審査委員がゲートインを認めた理由は明らかにされていないが、それが「12台も入れなかったから」ということなのは言うまでもない。ではいったい何台以上ゲートクローズに間に合わなかったら出走が認められるのか。この例外は、誤ってゲートを予定よりも早く閉じてしまった場合や、何らかの理由でゲートクローズの時間が周知されていなかったなどの大会運営ミスの場合にのみ適当されるべきではないだろうか。そうでなければ、例外が私的利用されてしまうことも懸念される。ルールにのっとって時間に間に合わなかった人に対しては毅然とした態度で出走を拒否すべきだったし、もしそうしていればここまで話が拗れることはなかったはずだ。
この審査委員会の判断に対してNOを突き付けたのは正規の時間でゲートに入ったエントラント。当然である。間に合わなかったドライバーが出場できるのは明らかにルールに沿っておらず、この抗議が通れば34台のレースだったはずが一気に22台だけになる上、ポイントは予選の出場台数で計算されるため17位までつく。このタイミングで抗議文を出さなければ一体いつ出すというのか。もしもこれがSLレースであれば、スポーツ&レジャーの名の通り、全員が出走し楽しんでレースできることが重んじられるはずなので、このような抗議を提出することは野暮だ。しかし今回は全日本カート選手権だったのだ。エントリーした時点からレースは始まっていた。ルールを正しく理解し所定の時間までにゲートを通過した22名のドライバーが、どうして残りの12名の出走を認めるのだろうか。そして審査委員会は、これがSLレースではないことを理解していたのだろうか。
ただ、もし遅れた12名のエントラント、あるいはサーキットがタイムスケジュールのミスに気付いたとしたら、全く違った結果になったかもしれない。エントラントはタイムスケジュールの遅れなどを理由に苦情を行うのではなく、タイムスケジュールそもそもの過ちを指摘し抗議すれば、これは明らかなサーキットのミスなのであるから、34台フルグリッドでの決勝ヒートが見られた可能性は十分にあるだろう。しかしそうはならなかった。彼らがそれをできなかった理由については、再び書く必要はないだろう。
+40分の遅れはサーキットのミス
正規のスケジュール(公式通知No.9-3)では、全日本FS-125決勝のスタート時刻は15時30分から、OK第6戦決勝のスタート時刻は16時ちょうどからであった。ただこれは上記のトラブルにより押しに押し、OKクラスを先に行うと発表された時点では16時15分になっていた。スペシャルタイヤでの戦いは路面コンディションとの戦いでもある。早くレースを始めようとメカニックたちはグリッドまでカートを押していくが、ここで予想外のトラブルが発生した。予選でフロントフェアリングペナルティを受けたドライバーのグリッドが降格されていなかったのだ。グリッド上には並ぶべき場所を見失ったマシンが溢れ、当該のドライバーがその旨をオフィシャルに自己申告したことでこの問題が発覚した。
そもそもすべてのドライバーが事前にグリッドを確認していればグリッド上での混乱は起きなかったはずだが、このミスは車検場とコントロールタワーの連絡ミス、すなわちサーキットの不手際であったことは瑞浪が認めている。結果、ルール上グリッド発表から30分の時間が必要(国内カート競技規則第41条の5)なため、全日本FS-125クラスのレースを先に行うことが決定され、サーキットの不手際により+40分のスケジュールディレイとなってしまった。もしこのグリッドの誤りがなければOKクラスの結果はまた異なったものになっていたかもしれない、と考えると様々な思いが当人たちの間ではあるだろうが、それも含めてのレースであった。
OK第6戦の結果が二転三転 原因はルールの解釈と政治的圧力
かくして日も大きく傾いた17時30分にOK第6戦決勝がスタートした。レース内容はさすが日本最高峰クラスというべき激しくもクリーンなバトルが随所で展開され、見る人に驚きと感動を与えただろう。ただ、トップ争いには疑問が残った人もいたかもしれない。
具体的にはレース中盤から終盤にかけての、トップを走る#3名取鉄平と#85佐藤蓮のバトルだ。明らかにスピードのある佐藤を名取は数周もの間ブロックし続けてトップを守った。この名取の走りに対し「背中に目が付いているようだ」というような絶賛する見方ももちろんあるだろうが、少なくとも審査委員会や競技会はそうは考えなかった。
あらすじ
- トップを走る名取がレース中に佐藤を数周にわたりブロックする
- レース中これについてコースオフィシャルから報告が上がるが、競技長の判断によりレース中の警告は出さなかった
- レース後、トップチェッカーの佐藤のフロントフェアリングがずれているたことから、暫定表彰式では2番手チェッカーの名取が優勝となる
- 名取がコントロールタワーに呼び出され、ペナルティを課す旨が伝えられる
- これに対し名取のエントラントであるTeam BirelARTが「レース中に警告旗が出されていない」ことを理由に抗議を提出する
- 審査委員会(JAF)の「ブロッキングでペナルティにする場合、レース中に警告旗を出さねばならない」という判断により、抗議が取り下げられ、抗議文と抗議料がエントラントへ返還される
- 名取に対し特に警告やペナルティのない暫定結果【No.43-01】が発表される(18時46分)
- 名取に対し警告が出された暫定結果【No.43-02】が発表される(19時1分)
- 競技委員会(瑞浪)が、審査委員会の判断が誤りであった(レース中に警告旗を出す必要はない)という主張を行い、これを審査委員会が認める
- 名取に対し警告と5グリッド降格ペナルティが与えられた暫定結果【No.43-03】が発表される(19時30分)
- 審査委員長(JAF派遣)がサーキットを離れ宿泊先のホテルへ移動する
- Team BirelARTが、「一度抗議を取り下げたにもかかわらず、3度目の暫定結果でペナルティになっているという判断に対しての抗議」を提出する
- JAF上層部メンバーが当初の「レース中に警告旗を出さねばならない」という判断とするよう競技委員会に要求
- 名取に警告が出された正式結果が発表される(23時10分)
そもそも名取はペナルティの対象になり得るのか
ここには様々な問題が絡み合っているが、第一に名取の走りがペナルティに値するのかどうかを考えねばならない。これについてはPaddock Gateのレースレポートを読むよりも、racingkart webが公開している動画を見たほうがいい。
さて、10周目にトップ名取の後ろに佐藤が付いてきたが、11周目から名取は2本のストレートや各コーナー入り口のイン側を走行し佐藤をブロックし、それは佐藤が一時3位に落ちた16周目から名取の背中をとらえるまでの3周を除き、20周目の1コーナーまで続いた。これがペナルティかどうかを判断するためには、まず今回の大会特別規則書を見る必要がある。そしてそれにはこう記載されている。
第29条 ペナルティ
(1)競技規則に基づく危険・反則行為に対し、積極的にペナルティを課します。ペナルティの判断は競技長や審査委員会によって、決定いたします。
(2)ドライバーサインを怠ったドライバーやドライバーマナーを厳守していないドライバーに対し、注意、警告する場合があります。この場合、クラブハウス大会審査委員室(計時室)まで来ていただきます。
(3)定められた方向とは逆に走行した場合ペナルティを課します。
(4)指定された作業エリア以外での作業にペナルティを課します。
(5)競技会中の反則行為について、ドライバーを停止させることなくペナルティカタログやその他の規則によって罰則を課します。
というわけでフェスティカサーキット瑞浪のペナルティカタログを見ると、下記の事項が見られる。
もちろん筆者はペナルティを下す立場にないため、名取の行為が果たしてペナルティなのかどうかを判断することはできない。が、少なくともレーンチェンジ行為やカットインに相当するドライビングが見られたとは判断できる。このペナルティカタログから、名取はペナルティの対象になり得たと言える。
レース中に警告を出す必要はあるのか
次の問題として、レース中に警告を出す必要があるのかどうかを考えたい。今回の場合のレース中の警告とは、上の動画の8分13秒付近に映されている幅寄せの警告、あるいは白・黒旗による警告のようなものが考えられる。これがない場合、スピードに勝る相手を抑え込みつつ優勝しようとできる限りブロックし続けるドライバーがいたとしても、そこに不自然さはあまりない。事実として競技長はレース中に名取に対して警告旗を出さず、名取は終盤まで後方をブロックし続けた。
さて、ではなぜ審査委員会はレース中に警告を出す必要があるという判断を一度行ったのか。これには根拠が存在する。2017年全日本カート選手権統一規則を見てみよう。
第38条 ペナルティ
<ペナルティの例>
(12)プッシング、極度のブロッキング(警告旗の後)
⇒着順から3位下(3つ下)の順位のポイント
同行為が著しい場合
⇒当該ヒート失格
注目すべきはこの”極度のブロッキング(警告旗の後)”という点だ。これを読んだそのままに受け取れば、極度のブロッキング行為に対してペナルティを課すためには、レース中に警告旗を提示せねばならず、つまり審査委員会の最初の判断は正しかったということになる。ただこの第38条の中にはこの一文も含まれている。 ”<ペナルティの例>” つまり第38条に記載されているペナルティはあくまでも例に過ぎず、必ずしもこの例の通りにペナルティを行う必要がない、というのが競技委員会の主張だ。既述ではあるが大会特別競技規則にも、
第29条 ペナルティ
(5)競技会中の反則行為について、ドライバーを停止させることなくペナルティカタログやその他の規則によって罰則を課します。
とあり、”その他の規則”とは何かが明記されていないことから、ここに記載されていないペナルティを課すことは可能であると読み取れる。実際に正式結果では名取に対し「ドライバーズマナー」の警告が出ているが、ドライバーズマナーとは何かを明記した本大会に関するルールブックは、筆者が調べた限りでは見当たらなかった。ここから「ルールに記載されていない罰則が科される可能性があることもまたルール」であると読み取ることができる。仮に想定外の事態が起き、それに対してペナルティを課すべきだと判断されても、ルールブックに記載されていないからペナルティは無し、となったら問題の起こる場合もあり得るだろう。
であるからには競技長がレース中に警告を出す判断を下さなかったとしても、競技後にペナルティを課すことは可能であり、必要とあらば新たな罰則を加えることも可能である、というのが筆者の見解だ。ただし、”その他規則”も規則であるからにはなるべく明文化されるべきであり、ルールとして曖昧である。またレースをスムーズに進行させ参加者を納得させるためにも、出来る限り<ペナルティの例>に沿って競技中の警告を行うべきであったと考える。
JAFの対応の問題
というわけで競技委員会の最初の判断はルールブックの認識不足によるものであった。曖昧な表現があるので誤認しても仕方がないし、人によってさまざまな捉え方をされてしまうルールのほうに問題があるとも言えるが。結果、競技委員会の主張が正当なものとされ、3度目の暫定結果で名取はペナルティという判定を受けた。
さて、この後のJAFの対応には様々な問題がある。まず第一に、正式結果が出ていないにもかかわらず審査委員長がサーキットから出てしまった点。全てのエントラントはレースの結果が出てから30分以内はその結果に対して抗議する権利があり、その抗議に対して判断を下すのが競技委員会であり、そしてその競技委員会の判断が正しいかどうかを見極めるのが審査委員会であるから、審査委員長がいないということはすなわち正式結果を出すことができないということである。彼の行動は審査委員長としてあり得ないことだと言わざるを得ない。
そして審査委員長の退席後にエントラントから抗議が提出された。最初の抗議は、ドライバーに対するペナルティを取り下げることを前提として抗議文もろとも返却されたのだから、3度目の暫定結果でペナルティが付いていることに対してエントラントが抗議を行うのは必然だといえる。競技長はこれを受け取ったが、競技委員会としてはあくまでも前述の理由からペナルティを与える姿勢を取った。ただしこの競技委員会の判断を審査すべき審査委員長が不在のため、正式結果を出すことができなかった。またさらに、レースを観戦しに来ていたJAFの上層部メンバーの一人がこの件に関して口出しを行ったことで事態は悪化。今回のレース運営と全く無関係であるはずの彼は、抗議の受け取りそのものを拒否し、さらに警告のみの判定にするように競技委員会に対し要求。全日本カート選手権はJAF管理下のレースであり、これに反抗することはすなわち今後のレース開催に大きく影響を及ぼすこととなる。すなわち今回のレース結果は、そのレース内容と全く無関係の政治的圧力によって決まったのだ。
馬鹿馬鹿しい結果である。もはやスポーツですらない。確かに規則というものは読み手によってさまざまな解釈がされ、受け取り方の違いが揉め事へと発展することは日常茶飯事である。そして全日本カート選手権において規則の解釈に疑義が生じた場合、審査委員会の決定を最終的なものとみなすと明記されている(2017年全日本カート選手権統一規則 第48条)。ではその最終判断を任される組織の人間が、正式結果前にサーキットを立ち去り、そしてルールの解釈をうやむやにしたまま政治力により結果を決めることが果たして許されるのだろうか。話し合いやルールの解釈ではなく政治力で結果が変わると判明した今、もはや全てのエントラントは、いかにしてタイムを詰めバトルを制するかよりも、どうやってJAFのお偉いさんと仲良くなるかを考えたほうが賢明かもしれない。そうでないとリザルトは私情やコイントスで決められてしまうだろう。
今後のモータースポーツのために
今回発生した全てのトラブルの発端は、金曜日深夜の土砂崩れにあったように思う。あれさえなければスケジュールの組み立てミスは起こらず、全てのヒートは遅延なく消化され、ドライバーは正々堂々とコース内で戦い、審査委員長は正式結果を見届けてからホテルへと帰っただろう。土砂災害の対応に追われたスタッフは疲労困憊し、様々な判断を誤ってしまったのかもしれない。ただそのような困難な状況の中、土砂災害に対してはエントラントや近隣ホテルに対して土曜日のスケジュールについて通告をし、コース周辺道路の安全確認を行うなどの素晴らしい対応を見せ、急遽1day開催になったにも関わらずどうにかスケジュールをこなしイベントを終了させたフェスティカサーキット瑞浪スタッフ、そしてそのスケジュールを共に過ごし素晴らしいレースを行った全ての参加者に対して感謝する。その一方で、正式結果発表前に退場し参加者を侮辱したJAFに対しては、一刻も早くその体質を改め、主催者側の立場であるという意識をもって、参加者や観戦者が納得して家に帰れるようなイベント運営を支える組織になることを強く求める。今後のモータースポーツのさらなる発展のためにも、JAFがそれを邪魔するような組織であってはならないはずだ。