KF部門の見どころ
国内カートの最高峰であるKF部門は、CIK-FIAが定めたKF規定に沿った水冷125ccエンジンを使用する。エンジン・シャシー・タイヤすべてのマテリアルがレギュレーションの範囲内で自由であり、ルールに沿ったマシンメイキングをすれば自作マシンでの参戦すらも可能である。エンジンはチューニング可能、プロトタイプシャシーの投入もあり、タイヤはBRIDGESTONE・DUNLOP・YOKOHAMAの3社がスペシャルタイヤを投入してくる、世界にも稀にみるカテゴリーとなっている。
開幕戦のもてぎ大会ではKFルーキー勢の走りが特に印象的であった。若々しくアグレッシブで、それゆえに危なっかしいところがありつつも上位を走るルーキードライバーに刺激を受けたベテラン勢も多いだろう。そしてこの勢いは瑞浪大会でも留まることを知らないだろうと予想する。この予想を踏まえつつ、KF部門の見どころを紹介していこう。
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2016全日本カート選手権もてぎ まとめ
タイヤ戦争の行方
BS勢の表彰台ほぼ独占という形で終了した第1・2戦。これの主な原因はBSタイヤのモデルチェンジ、そしてDLの想定温度域の見誤りにあったのではないかと考察した(BSの勝因を考察する)。今回は6月中旬の開催となり、山中のサーキットとはいえ気温や路面温度に関しては前回よりも予想がたやすく、各社ともに想定温度域を大きく外すことはないだろう。昨年の瑞浪大会も6月28日と今回に近い日程であり、かつ3社ともに5月中旬に瑞浪でのタイヤテストを行ったとの情報もあるため、充分なデータがそろっているはずだ。
ところで、フェスティカサーキット瑞浪はハイスピードサーキットであると記述したが、その一方でタイヤには優しいサーキットでもある。コーナーは緩くブレーキングポイントは4か所。1か所は2コーナーでのきっかけ作りのチョンブレ(一瞬だけのブレーキ)であり、残る3か所も直線的ブレーキ。そしてコースの大半は直線に占められている。これらの要素により、瑞浪で勝つために必要なタイヤ開発ポイントは以下の3点であろう。
- グリップの向上を図るために耐久性を多少犠牲にできる
- ストッピングパワーを稼ぐための縦剛性
- 転がり抵抗の減少
大まかな話だが、タイヤの剛性を向上させると転がり抵抗の減少につながるため、あとはコンパウンドとの兼ね合いになるのだろう。ただし固いタイヤは熱が入りにくいという問題点もある。各社ともに初期グリップは高くないタイヤを用意せざるを得ない状況になることが予想されるため、レース序盤は低グリップ下でのドライバーテクニックの差が現れやすくなる。
前回のもてぎ大会において、BSタイヤの性能向上には目を見張るものがあったが、2社の差はわずかなものであった。もてぎで飛躍的な進化を見せたBSにDL、YHがどこまで追いつけるのか、ここに注目だ!
ルーキー勢の快進撃が続くか?注目の選手たち
前回のレースで筆者はルーキー勢のアグレッシブな走りに驚愕したのと同時に、「あれでタイヤが持つのだろうか」と疑問に感じた。しかしながらその印象は間違いであったことは結果を見れば明らかである。多くのルーキーが表彰台や上位に食い込んでおり、タイヤの性能向上はルーキーの走りに対しても十二分に対応するまでになっていた。加えて瑞浪のタイヤに優しい特性、そしてレースやテストの経験が上乗せされたルーキー勢は前戦以上に激しいレースを見せるだろう。
ここで去年の成績と合わせてみてみよう。今年の開幕戦優勝の高橋悠之(No.9/TONYKART/VORTEX/BS)は昨年の瑞浪では第4戦に8位を取っている。これはBS勢2番目である。彼からはもてぎのようなテクニカルコースは苦手だというコメントもいただいたが、瑞浪にも後半のテクニカルセクションが存在する。もてぎで見せたクレバーな走りはテクニカルコースを克服した証しだろうか?だとすれば瑞浪でも更なる躍進を見せるのかもしれない。続いて菅波冬悟(No.18/CRG/TM/DL)は去年BSタイヤを使用していたが、所属するSUCCEED SPORTS Jrが今年からDLタイヤへ乗り換えた。昨年の瑞浪ではBS勢最高位となる4位を獲得している。前戦のもてぎではTT、2回の予選ともに素晴らしいパフォーマンスを発揮し、決勝への強い自信を見せていたものの、決勝は2回ともにペース不足が否めなかった。去年BSが不調の中瑞浪で好成績を残した菅波は表彰台の有力候補の一人だが、今回はどのようなレースを見せるのだろうか?
続いてルーキー勢を見ていこう。去年の瑞浪での全日本FS-125で好成績を残したのは佐藤巧望(No.25/INTREPID/TM/BS)、冨田自然(No.13/KOSMIC/VORTEX/DL)、三宅淳詞(No.31/SWF/IAME/BS)の3名だ。佐藤と冨田は前戦のもてぎでチューニングエンジンならではの洗礼を受けリタイヤという結果に終わってしまっている。レース前にはスペシャルタイヤへの不安や戸惑いも口にしていた両名であるが、2か月半のインターバルの間にどのような成長を遂げたのだろうか。そして三宅淳詞はもてぎでは速さはあるもののあと一歩が届かず、といった週末を過ごしていたが、最後の第2戦で2位入賞を果たした。何かスペシャルタイヤのコツを掴んだようにも見えた三宅だったが、瑞浪もこの調子で走ることができるならば連続表彰台も狙えるだろう。第2戦優勝の名取鉄平(No.11/birelART/TM/BS)も三宅と同じようなペースで週末を過ごしていた。彼はレース後に「瑞浪は全日本開催コースの中で一番苦手だ」と話してくれたが、果たして不得意な瑞浪を攻略することができるのだろうか?またDL勢の中で強さ・速さを見せつけていた角田裕毅(No.34/DORAGO/TM/DL)、そしてもてぎでは2戦ともに予選の序盤にストップ、決勝での猛烈な追い上げを見せ2位入賞も果たした大草りき(No.24/TONYKART/TM/BS)の両選手は東地域出身のドライバーであるために瑞浪でのデータが不足しているが、X30やMAXのカテゴリーにて瑞浪を経験しているため、まったく未経験のコースといった様子ではない。
シーズン前半戦、フェスティカサーキット瑞浪で彼らがどのようなバトルを繰り広げるのか、一人一人に注目しながら見ていってほしい。
梅雨シーズン真っ盛り!ヨコハマタイヤの勝機はあるか?
日本気象協会の発表によると、東海地方の梅雨入りは6月5~12日ごろであり、気温は例年より少し高めになるとの予報されている。もちろんKFのレインタイヤもスペシャルであり、外見こそ市販ハイグリップレインタイヤと変わらないものの中身は別物のようにグリップする。筆者も初めてスペシャルレインタイヤで走行した時には、あたかもドライかのように走れるその性能に驚きを隠せなかった。
さて、レインといえばやはり昨年開幕戦の印象が強く残っているだろう。降りしきる雨の中、圧倒的ハイペースを最後まで保った三村壮太郎(No.21/crocpromotion/TM/YH)がヨコハマタイヤに悲願の初優勝をもたらした。三村はツインリンクもてぎをホームコースとしており、もてぎでは絶対的な自信があると語ってくれた。三村のドライビング、シャーシ・エンジンのポテンシャル、そしてYHレインタイヤの性能、そのすべてが絡み合い昨年の開幕戦優勝という結果を残したことは間違いない。それゆえに雨と聞くと、ヨコハマタイヤがまたやってくれるのではないかと期待してしまうのも無理はないだろう。
しかし、昨年の開幕戦で三村の後ろに連なる上位陣は全員DLタイヤを装着していた。それ以前のハードウエットコンディションとなると2012年の前半戦まで遡らなければならず、この当時はBSがドライ・ウエットともに優位性を発揮していた時代だ。市販ハイグリップレインタイヤであれば、雨脚が強い場合はBSが、弱い場合はDLが有利と言われたこともあったが、果たして2016年の今、各社のレインタイヤはどのような進化を遂げているのか、雨天時には注目ポイントの一つとして覚えておいてほしい。