「カートに復帰するし、せっかくなら走ったこと無いコースでレースに出たいなぁ」
なんて考えていた今年の初め。カレンダーを見ていたらちょうどいい時期(?)にちょうどいいレース(?)があることに気が付きました。となればそれに向けて準備するのみ。初めて走るサーキットですし、全日本カート選手権への参戦も12年ぶりです。2019年に全日本に格上げされたFP-3部門については当然初参戦なので、事前にしっかり予習を行い、なるべく効率的に週末をこなして高い順位を獲得することを目標としました。
12年ぶりに全日本カート選手権に挑戦
そんなわけで2022年5月8日に神戸スポーツサーキットにて開催された全日本カート選手権にエントリーしました。参加クラスはFP-3部門、YAMAHA-SSクラスとほぼ同規格マシン(※FP-3は最低重量が150kg、SSは145kg)で出場可能というレギュレーションは僕のようなエンジョイカーターには嬉しいポイントです。ただ自前のエンジンは今のところ勝負できるようなパワーがないので、知り合いにお願いしてエンジンをレンタルしました。レースウィークのメカニックには同じチームの友人Kを呼び寄せ、神戸の元町付近に宿を取ることで、美味しい夜ご飯と楽しいお喋りにありつけるって算段です。これで週末を楽しむ準備はバッチリ。
1週間前に事前練習
過去の経験から「初見のサーキットにレースウィークの金曜日入りするとわけもわからないまま決勝レースを迎える」ということを理解しているので、レースの一週間前に事前練習を行いました。全日本もてぎ取材の1週間後、それもゴールデンウィーク真っ只中に片道7時間も軽バンを走らせて神戸に向かうのはスケジュール的にもキツイと自分でも思ったのですが、来週のレースを楽しく過ごすためには必要な犠牲です。
この日は午前中が雨、午後からは晴れましたが数か所にウエットパッチが残り続けるという状況で、完全なドライこそ走れなかったものの様々なコンディションが経験できてとても良かったです。レース本番で雨が降らないとは限りませんからね。
全く初めてのサーキットなので、最初はまずコースウォークしてしっかりと様子を確認します。また多少マシンが乗りにくいと思ってもあえてセッティングは行わず、ひたすらドライビングでのコース攻略に努める方針で行きます。コースインして徐々にペースを上げていくと、予習で想像していたこととは違った部分もあり正直戸惑いがありました。特にコース前半区間は琵琶湖と似てるなと思っていたのですが、実際走ると各コーナー間の距離が全体的に短く、思ってたリズム感と違います。2コーナーやダブルヘアピンの低速で小さく回り込み続ける感じは少し独特ですし、全体的に逆バンクになっているコーナーが多く、またラインの自由度が高くない割にミスしたときのロスが大きい辺りに悩まされます。ただ地元の方々と話すことで、コース攻略上抑えるべきポイントをいくつか把握できたことは収穫でした。失ったものといえばシートの底ぐらいです。
結局マシンセッティングはほぼ全くと言ってよいほど行わなかったのですが、逆にそのお陰で
- 回り込むコーナーでハンドルをある程度切り続けられるようなフロント周り
- 中速コーナーでのリアのトラクション
の2点が来週のセッティングでのポイントになるだろうという予測が立ちました。PAROLIN LE MANSのトラクション性能の高さはかなり武器になりそうな一方で、転舵初期の反応が良すぎる点が仇になってしまうコーナーがいくつかあり、神戸ではまずその辺りの修正が必要に感じます。情報を整理していくと次第にレース本番でやるべきセッティングが見えてきました。
ただ、この時点で「本番ではTOP10に入れれば御の字かなぁ…」というのが素直な感想でした。FP-3はKT職人が集まるだけあって結構ハイレベルですし、地元勢のキレッキレの走りは一朝一夕でどうにかなるイメージが全く湧きません。AiM Mychron5で得られたデータやオンボード映像を確認して、翌週に一つでも順位を上げられるようなにかヒントを探っていきます。
レースウィーク突入!やることを絞って効率的にこなす
いざレースウィークの金曜日になり、再び神戸の地に降り立ちました。天気予報を確認すると、幸運なことに日曜日までの3日間はドライで走れそうです。今回のメカニックをお願いした友人Kと合流して、今週やるべき以下の3つを確認します。
- ドライバーがコースに対しての習熟度を上げること
- 僕の妄想シャーシセッティングの確認
- ライバルとの比較
ちなみに友人Kもここに来るのは初めてなので、二人とも神戸スポーツランドに対する理解度はほぼゼロ。そんな二人で全日本カート選手権を戦うにあたって僕が取った作戦、それは「選択肢を最初からある程度絞っておく」「金曜日はセッティングを深く追い込まない」ということでした。例えば選択肢のあるパーツのいくつかは予め決め打ちしておき、手間と時間がかかるタイプのセッティングはよほどの問題がない限りはしないことにします。特に今回はFP-3出場マシンが半数を占めており、ハイグリップタイヤを使うFS-125の台数が少ないので、おそらく極端に路面コンディションが変化することもないはず。さらに金曜日に用意できたタイヤはあまり状態の良いものではなかったこと、日曜日に向け路面が徐々に出来上がっていくことを考えると、今日はおおよそまともに動くマシンセッティングだけできれば良しとします。
いざ初の完全ドライコンディションな神戸スポーツサーキットを走ってみると、やはり予想通り数カ所のコーナーで苦しく、また路面グリップが先週から上がったことでマシンがバタバタしてしまいます。というわけで事前に考えておいたフロント周りの剛性を落としフロントトレッドを広げるセット試してみたところ、かなり良くなったコーナーがあった一方で、かなり悪くなったコーナーもありました。ただセッションを重ねていくことでちょうどいい塩梅が見つかってよかったです。またリアタイヤの発熱具合がフロントに比べて高いことも判明し、前後バランスを調整する事もできました。マシンセットについては金曜日の目標は達成できたと言って良いでしょう。ところどころ気になる点はありますが、それは明日で良いです。
ドライビングについては積極的に地元ドライバーの後ろについて走りを真似するところから開始。とは言え結構個性的な走りをするドライバーも多いので、多少自分なりにアレンジを加えていくしかありません。そうこうしていると単発のタイムだけで見ればそこそこのところまでは行くようにはなりました。しかし、いかんせんタイムのばらつきが気になります。ちょっとしたラインのズレで大きくタイムが落ちてしまう箇所があり、地元勢の安定感の高さには舌を巻きます。これはマシンよりもドライバーの問題ですが、僕のコースへの習熟度がいきなり上がることは有りえません。なので「ラインを外すとタイムが大きく落ちてしまうポイント」を外さないように、安定してアプローチする方法を探っていくことにしました。
レース本番に向け最終の仕上げ
土曜日は同クラスに出場しているライバルと一緒にコースウォークすることからはじめます。運の良いことに過去の神戸のレースで好成績を収めたドライバーとも歩くことができたので、ガンガン質問して彼の走りを教えてもらうことができました。いくつか疑問に思っていたことのヒントが得られたので、今日はそれを実践していきましょう。
朝イチのセッションで新品タイヤを投入して、明日のTTのフィーリングを掴みに行きます。ところが新品タイヤの割に全くタイムが上がる気配がありません。フレームのバランス自体は言うほど悪いところに居ないのに、タイヤのグリップを引き出しきれてない印象です。また昨日の段階では「どうせグリップが上がれば大丈夫」と予想していたのですが、想定よりリアのグリップが上がらず中速コーナーでのロスがあります。フロントトレッドも中古タイヤではちょうどよかったですが、新品タイヤに対しては広すぎる印象です。このあたりを微調整していくと徐々にタイムも上がり始めました。気温などの影響によりライバル達のタイムが落ちるセッションでも僕のタイムは変わらなかったので、事実上タイムアップしていると見て良いはずです。
また朝のコースウォークで得られた情報を自分なりに噛み砕いた結果、気になっていたコーナーがふと楽に曲がれる瞬間が訪れました。これを毎ラップできるようにトライしていった結果かなり再現性が高まり、ミスしてもタイムが安定するように。こういう瞬間が来るとテンション上がりますよね。
お陰でインフィールドセクションは良いペースで走れるようになりましたが、妙に最終コーナーでグリップ感が薄く、明らかに遅いことが気になります。ただここのバランスを取ろうとすると他のコーナーの動きが悪くなって、総合的にはタイムダウンしてしまいます。もしかすると大幅なセッティング変更でどうにかなるような気もするのですが、今からそれをやるには時間が足りません。トップと比べるとその速さに追いつけていませんが、金曜日の走り始めから見れば月とスッポンほどの差を感じられるほど車の動きは良くなりました。あとはドライビングでどうにかすることとしましょう。
あと一歩の速さが足りないという状況を打破する手段が無いのは問題ですが、ちょっとした博打を打ってみるのもアリかもしれません。「明日の公式練習でサクッと試してみるか~」なんて友人Kと気楽に話しながら、神戸の夜は更けていくのでした。