猫も杓子もカーボンニュートラルを叫ぶ世の中になった昨今、DUNLOPから新型カートタイヤとなるKE-1が発売されました。このKE-1、プレスリリースによるとEVカートに対応した構造を持つタイヤとのことで、一体何がどう違うのか気になります。というわけで早速DUNLOPの協力を得て、この新型タイヤの独自テストを実施しました。
ところでこのKE-1、僕もリリースが出た直後はレーシングカート用かと勘違いしたのですが、DUNLOPによるとレンタルカート用タイヤとのことです。というわけでソニックパーク安心院にも協力していただき、レンタルカートに装着してテストを行いました。
KE-1:構造とコンパウンドを見直したEVカート用タイヤ
DUNLOP KE-1はレンタルカート用タイヤですが、EVカートでの使用を前提とした開発が行われたとのこと。EVカートは出だしから最大トルクを発生する点、現時点ではどうしても重量増が避けられない点が従来のガソリンエンジン搭載マシンとの違いなので、重量増とハイトルクに対応した構造を持っています。ちなみに欧州ではKE-1が先行販売されています。
従来のDUNLOPレンタルカート用タイヤは耐久性を重視したコンパウンドを採用していますが、一部のサーキットや、極端に発熱を促すような走りをすると急速に摩耗が進む場合があるという課題を抱えてしました。それに対してKE-1はコンパウンドが見直され、優れた操縦安定性とグリップ力の両立を実現しているそうです。
新品のKE-1を手にとって見ると、いかにもレンタルカート用タイヤらしい分厚いトレッドで、普段僕が手にしているレーシングカート用タイヤとは違うことがはっきりわかります。しかしDUNLOPタイヤらしく非常に軽量なのが好印象です。ちょうど海外製レンタルカートタイヤの新品があったので持ち比べてみたのですが、海外製タイヤには何が詰まっているのか不思議に思うぐらい重たく固く、タイヤ交換もKE-1のほうが圧倒的に楽。というか重量も交換の難易度もSLタイヤと感覚的にはさほど変わりません。
唯一難点を挙げるとすれば、リアタイアのサイズがレンタルカートで一般的に使われている11×6.00-5ではなく、レーシングカートと同じ11×7.10-5だということ。これ故タイヤバンパーを付けている車両では注意が必要かもしれません。この都合で、今回はソニックパーク安心院のノーマルレンタルカートではなく、エンジン出力の高いエキスパート用のレンタルカートを使用しています。
実走テスト
というわけでKE-1をレンタルカートに装着していざテスト走行開始です。エア圧はさっぱりわからないので適当に冷間100kPaとしておきます。
走り出し、ピットロード最初の左コーナーを曲がるべくハンドルを切った瞬間、ある違和感を覚えます。そしてそれはコースインして最初のコーナーを曲がった瞬間に確信へと変わりました。
このタイヤ、ものすごいグリップする。
まだタイヤ表面に離型剤が残っているという状況にもかかわらず、驚きのグリップ感です。皮がむけるまでは多少注意しようなんて気が全く無くなったので、とりあえずアクセル全開で攻めていったところ、これまでレンタルカートで感じたことのないレベルのスピードでコーナーをクリア、緩いシートも相まって強烈な横Gが身体を襲います。なんだんだこれは。
冷間時どころか皮むき前から恐ろしく高いグリップを発揮したKE-1ですが、その後皮が剥け、熱が入ってくると更にグリップ力はアップ。驚くべきはそのハンドリング性能で、ハンドルを切った瞬間、レーシングカートに乗っているのとなんら変わりない感覚でスパッとノーズの向きが変わってコーナリングしていくのです。レンタルカートだから当然樹脂製のタイロッドなのに。っていうかBirel N35ってインリフトするんだ…。またタイヤが軽いためか、転がり感もよくストレートの伸びも良いように感じます。
僕はこれまでレンタルカートという乗り物は、重く曲がらない車両をどうにかコントロールし、フロントタイヤを地面にズリズリ押し付けながら曲げていくものだと思ってました。しかしKE-1を履いた車両においては、それは全くの誤りだったようです。非常にシャープなハンドリング特性に生まれ変わったレンタルカートがこれほどまでに面白いとは思ってもいませんでした。
強いて言うならフロントのシャープさに対してリアタイヤのグリップ力が一歩劣る印象で、特にブレーキングやコーナーミドルでのリアの軽さが気になります。しかしレンタルカートは速度域が低いためそこまで不満ではありませんし、むしろリアタイヤがある程度積極的に動いてくれる分だけ、最初のハンドルの入れ方でマシンコントロールできるのが楽しいです。ただ、レンタルカートのエンジンパワーに対してはオーバーグリップ気味で、Rの大きいコーナーではパワーが喰われている印象も若干あります。
真面目にアタックをした結果、1分1秒6というタイムが記録。コーススタッフによるとこれは中古のハイグリップタイヤをレンタルカートに装着したときと同じタイムとのこと。とは言え流石にKE-1がハイグリップタイヤ相当のグリップ力があるわけではありません。でもSLタイヤと同等ぐらいのグリップがあるのでは…?
1セッション走った後のタイヤを観察してみると、かなりサラッとしたトレッド面になってました。実際の操縦フィールとしても、コンパウンドが溶けてグリップしているというよりも、タイヤ自体が路面に追従しているようなグリップ感でした。少し気になるのは、高いグリップ力とトレッド面の厚さに由来しているであろう発熱量の高さです。テスト日のそこそこの気温の高さと相まってなかなか冷めてくれる感じがありません。
様々なドライバーにテストしてもらう
レンタルカートは様々なドライバーが乗ることを前提とした乗り物なので、ソニックパーク安心院のスタッフの方々や、常連のお客さんにも試乗していただきました。
皆が一様に口をそろえるのは、やはりグリップ力の高さ。特にフロントタイヤの入りの良さは特筆すべきポイントで、従来のレンタルカートのハンドルを切ってからの「曲がり待ち時間」と「四輪の滑り」が無く、スパッとカートの向きが変わるのが気持ちいい、コーナーワークが決まった爽快感があるという評価がありました。一方でパワーに対して明らかにオーバーグリップなためドライバーの技量による差が出にくいのではないか、という意見もありました。
また、テストをしていく中で非常に面白い現象がありました。同程度の技量ながら体重差が15kgもある2人のドライバーのタイムの差が0.2~0.3秒ほどしか無かったことです。おそらくKE-1はEVカートの重たい車重を前提に開発されたタイヤなので、ある程度重量がある方が性能を活かせるのかもしれません。これはレンタルカート用タイヤとしては好都合な特性といえるでしょう。
エア圧は低めがベスト
ただ、セッションを重ねていくと明らかにタイムが落ちてきたことが気になります。明らかに最初の1分1秒台には届かず、2秒台後半でラップしていることがほとんどになっています。まさかレンタルカート用タイヤなのに最初の一発だけのミラクルグリップなんてことがあるのでしょうか?気になったので、最後にもう一度自分で走ってみます。
するとどうでしょう。新品のときのシャープなハンドリングは影を潜め、普通のレンタルカートに近いフロントが逃げるハンドリング特性になってしまっています。このときは正直言ってかなりがっかりしました。でもこの感覚、この滑り方……明らかにタイヤの熱ダレです。おそらく最初に適当に決めた空気圧が高すぎたのだと思います。このセッションのベストタイムは1分2秒4と、新品のタイムから0.8秒落ち。しかし同一セッションで常連のお客さんがSLタイヤを履いた同一仕様のレンタルカートで走行していたのですが、彼のタイムも1分2秒半ば。KE-1がいかにグリップの高いタイヤかということがよくわかります。
後日に他のサーキットでテストした方に話を伺ったところ、冷間70kPaで設定するとタレずに走り続けられる、という情報を入手しました。この設定値はSLタイヤと同等なので、KE-1が一般的なレンタルカートタイヤとは明らかに異なることがはっきりとわかります。
この日のテストを終えた後のタイヤがこちらです。途中から熱ダレした分だけフロントタイヤを酷使してしまった様子はありますが、従来のDUNLOP製レンタルカート用タイヤで見られた問題は解決されているようにも思えます。
新時代のレンタルカート用タイヤ
今回のテストでは、レンタルカート用タイヤとして最重要項目である耐久性を検証するための十分な時間が取れませんでした。グリップが高い分だけ減る心配はあります。ただ明らかにシャープで軽快なハンドリングを生み出すKE-1は、ハンドルの舵角や切っている時間を最小限に抑えられるので、タイヤ自体の摩耗、そして路面へのダメージを軽減できることも期待できます。
一方でこのグリップ力は現在のレンタルカートの概念を大きく超えるもので、万人向けかどうか判断することは僕には難しいです。KE-1が生み出す横Gは未経験者にはハードですし、今回の車両よりローパワーに設定されたレンタルカートに対してはあまりにもオーバーグリップです。しかしこのクイックな走りを誰もが手軽に味わうことができれば、カートのファンはもっと増えるのではないかと期待してしまう自分も居ます。
おそらくEVカートの重たい車重が合わさることで、KE-1の走りはある程度マイルドになるだろうという想像は付きます。コーナーでパワーが喰われる感触もトルクフルなモーターにより打ち消され、任意の最高速度に設定することでより万人向けなマシンに仕上がるのかもしれません。走り始めからグリップが一定しているのも安心感が高く、乗り手の技量に左右されない安定した性能を持っていることは高く評価します。また今回テストはしていませんが、スポーツカートやローパワーのレーシングカートに履かせてもかなり楽しめるのではないかとも感じました。
現在のフォーマットに囚われない、新時代のEVカートに向けたタイヤとして誕生したDUNLOP KE-1。その優れたハンドリング特性が、新たなカートファンの獲得と業界の発展を文字通り足元から支えてくれることを強く期待しています。