筆者が当時の最高峰カテゴリーである全日本カート選手権SuperKFクラスに出場していた時、ある一つの悩みを抱えていた。それは「グローブがすぐにダメになる」ということ。路面にへばりつくようにグリップするスペシャルタイヤに対応すべく、ハンドルにグリップテープを巻き、某社の上級モデルのグローブを使用していたのだが、半年ほどで損傷が目立つようになってしまった。あまり安い物でもないので騙し騙し使ってはいたが、最終的には生地が破れグリップ部分は剥がれ、満足のいく性能を発揮できない状態になってしまったのだった。
ところが最近、進化し続けるスペシャルタイヤを使用する全日本カート選手権OK部門において、高い評価を得ているグローブがあるという。それが今回ピックアップする、-273グローブだ。
アメリカ発祥のモータースポーツアパレルブランド -273
-273というブランドを知らない人も多いだろう。それもそのはず。このアメリカ発祥のブランドは、2008年からKimi Raikkonen, Ben Hanley, Bruce Jouanny, Scott Speed などをサポートしているものの、現在ブランド唯一のモータースポーツ用品であるレーシングカートグローブを発表したのは2016年のことなのだ。大本がファッション系ということもあり、その最大の特徴はデザインにあるといってもいい。これまでに発売されてきた20種類を超えるグローブの全てが、これまでのレーシンググローブの概念を打ち壊す大胆なカラーリングをまとっている。好みの問題なので好き嫌いはあるだろうが、その個性は色鮮やかなコース上であっても周囲の視線を集めるほど強烈だ。
歴史は浅いがすでに海外では数多くのメジャーレースでタイトル獲得に貢献している-273グローブ。日本国内では2017年からレーシングギアショップmonocolleによって取り扱いが開始され、OKカテゴリーでは三村壮太郎、朝日ターボ、三宅淳詞といったドライバーらが愛用している。
レースで-273グローブを使用してみる
そんな-273グローブを国内販売元であるmonocolleより提供していただいた。ちょうど2018年12月16日に開催された鈴鹿選手権 第7戦AVANTIクラスに出場を決めていたので、ここで実戦投入し、グローブの実力を見定めていく。
伸縮性に優れ高いフィット感のあるグローブ
その前にグローブ本体を観察していこう。本体の生地はポリウレタンの合成繊維により構成され、軽さ・薄さ・そして高い伸縮性を持っている。指部分は立体になっており、親指を除くすべてが外縫いにて縫製されている。外縫いのメリットは肌へのゴワゴワ感の減少だが、デメリットとしてハンドルなどと擦れた際に損傷しやすい点が挙げられるだろう。-273グローブは、壊れやすい親指部分のみを内縫いにすることで耐久性の向上を狙っている。手のひら部分にはグリップ力を高めるためシリコン素材が配置。グローブのデザインによってシリコンの配置は異なるが、いずれもパンチング加工により通気性を向上させている。
いざグローブを装着してみると、そのフィット感の高さに驚かされた。若干タイトな造りとなっているが、ここはワンサイズUPなどせず、自分に合ったものを選択すべきだ。適切な大きささえ選べば、伸縮する素材が指先から手首までピタッとあってくれるはず。また手の甲の部分はワンピースで、デザインもプリントなため柔らかく、ハンドルを握ってもどこかが突っ張るような感触はなかった。
一方、そもそもそれをレーシンググローブに求めるかという話ではあるが、手の甲の生地はジャージ風の素材でかつプリントによるデザインが施されているため、高級感は感じられない。決して安っぽいわけではないが、従来のグローブとは異なる素材やアプローチで作られているが故に、もしかするとそういう部分が気になるかもしれない。ただこのグローブ、後述するが実際に比較的安価なのだ。
グローブとハンドルが吸い付くようなグリップ感
さて、ここからは実際に練習走行からレースにかけて使用していった感想を述べていく。まずハンドルを切った瞬間に感じ取れるのが、手のひら面のグリップの高さ。まるでハンドルにグローブに吸い付くかの如くグリップしているように感じられた。筆者は普段、このグローブよりもわずかに高価格に設定されている他ブランドのグローブを使用しているのだが、-273グローブのほうが高いグリップを感じた。もちろんこれは使い込んだ中古品か、まっさらな新品かという違いがあるため、純粋な比較とはいかないが、驚きを感じさせられる程度の感触があった。手にピタリとフィットしているため、手とグローブ、グローブとハンドルがずれていくような感覚は皆無。タイヤからのインフォメーションが確実に手に伝わってきた。あたかも素手のグリップ力が何倍にも上がったかのような感触、と言えば伝わるだろうか。また薄手の生地となっているためか、キャブの調整もスムーズでわかりやすかったことも書き記しておく。
恥ずかしながら筆者のカートは年式が古く、ハンドルの劣化が激しかった。この見た目を改善するべく土曜日の朝にテニスラケット用のグリップテープを巻いたのだが、-273グローブはこれとの相性も抜群。グリップテープによってハンドルとグローブとの一体感が増し、ドライビングがさらに楽になった。これだけのグリップ力があれば、周回数が増すごとに蓄積される疲労がかなり軽減されるのは火を見るよりも明らかだ。
レース当日は路面温度が低く、オープニングラップではタイヤのグリップ不足に苦労するドライバーが多かった。その中でも筆者が予選で10番手スタートから1周目の時点で2番手までジャンプアップできたのは、繊細にフィードバックを伝えてくれる-273グローブがあったから、なのかもしれない。ただ、通気性が高い分だけ手が少し寒かったが…。
OKで一年使用して見える耐久性
耐久性の面の話をしていきたいが、さすがに今回のテストだけでそれを語るのは愚かだと言わざるを得ない。そこで、OKドライバー三村壮太郎が2018年に丸1年使用したグローブに登場願おう。
これが、実際に三村壮太郎が全日本カート選手権OK部門2018シーズンを戦ったグローブ。テストでは別のグローブを使用していたそうだが、レースウィークは木曜日から日曜日までの4日間×5大会使用していたとのこと。使用に伴う汚れやヨレこそあるものの、肝心のシリコン製グリップ面に大きな痛みは見当たらない。スペシャルタイヤの強烈なグリップをも耐え抜く-273グローブの耐久性は、折り紙付きだといえるだろう。
繊細な操縦感覚を求めるドライバーに
今回のテストによって-273グローブは、冬場など特定の条件下での使用を除けば、高いパフォーマンスを発揮してくれるグローブなのは間違いないことが分かった。価格は一部のカラーを除き、1set税別8000円(2019年3月現在)。これは他ブランドのベーシックモデルと比べるとわずかに高価だが、最上級モデルと渡り合える性能を持っているため、十二分に安価だと考える。そして高いグリップ力は、レース後半にかけてドライバーの体力や集中力を存分に温存してくれる。つまり-273グローブは、その高いデザイン性はもちろんだが、繊細な操縦感覚を求めるドライバーや、体力面に不安のあるドライバーにこそ使用してほしい、性能面でもイチオシできるレーシンググローブだった。
2019年モデルが発売!
-273グローブの2019年モデルがmonocolleより2019年3月6日に発売を開始。星条旗をモチーフとしたアメリカンなデザインや、シックなカモフラージュカラーなど、全12色が追加。個人的にはCamo Black×Gray×REDカラーが気になる。また新色の内4モデルに関しては新たに全面内縫いを採用することによってデザイン性を高めている。
これに伴い2016-2018年モデルは本国で生産終了となり、日本国内での販売は在庫限りとなった。気になるカラーリングがある人は早めに注文するのが吉だ。
文:藤松楽久
写真:Paddock Gate, Y’s PHOTO
商品提供:monocolle
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レーシングカートに限った話ではないが、モータースポーツというのはとにかく装備品にお金がかかるので、初期投資が高く、始めるためのファーストステップを踏み出せないという人は結構多い。