2025年10月19日に三重県 鈴鹿サーキット南コースで行われたSLカートミーティング全国大会にて、トヨタ自動車が開発中の「GR KART」(以下GRカート)が初めて一般に公開されました。また当日にはお披露目会としてデモレースも開催され、選ばれた10組の親子ドライバーたちがGRカートで鈴鹿南コースを駆け抜けました。


既報の通りGRカートはトヨタ自動車が開発を行う入門者向けカートです。GRカート担当のトヨタ自動車株式会社 GR車両開発部 主査 伊東直昭氏に取材したところ、「GRカートの位置付けは現在のSLレースの更に下のレベルであり、現在のレーシングカートに置き換わる存在ではありません」とのこと。GRカートは入門者向けという明確なコンセプトを持ち、それにふさわしい性能と取扱の手軽さを併せ持ちます。
2027年にSLレースのエントリークラスとして参入
今回のイベントで新たに発表された情報は以下の通りです。
- 価格はコンプリートで35~39万円を予定
- 2026年秋の発売を予定
- 2027年にSLレースのエントリークラスとして組み込まれる
価格に幅を持たせているのは、実際の販売予定日までまだ1年ほどの期間があるため。近年の物価上昇などもあるため今回はこのような発表を行ったとのことですが、やはりいちユーザーとしては税込40万円を切るかどうかに期待したいです。

ペダルのスライド機構とワンタッチでチルト調整できるステアリング機構により、135cm~185cmの慎重に対応するGRカートのコンセプトを体現するべく、実際に近隣のカートコースでレースを楽しむ、様々な走行レベルの親子がデモレースでGRカートのステアリングを握りました。お父さんたちが3周のタイムアタックを行い、その順位を元に子供たちによる5周のレースが行われました。

タイムアタックの結果、トップタイムとなった父親ドライバーのタイムは約1分5秒でした。一般的なレンタルカートであるBirel N35が南コースを走るとおおよそ1分10秒程度、またYAMAHA SSクラスは55秒程度であることから、タイムで見れば4stエンジンを搭載したスポーツカートより少し遅い程度と思われます。しかし一般的なレーシングカートより一回り小さいディメンションを持つため、見た目には案外スピード感があります。
GRカートはストレートスピードが伸びる一方で、ショートホイールベース、ナロートレッドなマシンゆえにコーナリングスピードは遅めに見えます。またハンドリングがかなりピーキーでリアが軽い動きを見せており、普段はあまりないような場所でのスピンも複数回発生しました。ただし車の動きはかなり軽快で、走る喜びを感じることのできそうなマシンであることはよく伝わってきます。実際にそのハンドルを握れる日が来るのが楽しみです。
カートのあらゆる手間を排除した設計

GRカートは従来のレーシングカートに存在した様々な「めんどくさい」を排除した設計が取られています。特に注目すべきは汎用4stエンジンでありながら、エンジンオイルを抜かないまま縦置きが可能という点です。専用のキャッチタンクを備えることでそれを実現したほか、ガソリンタンクやキャブレターにも工夫を施し、ガソリンを入れたまま立てることも可能とのこと。


一方で多くのエントラントの注目を集めていたのがこの縦型スタンド。カートを立てられるのは当然として、連結輸送台車にもなるという仕組みは、運搬やガレージ内での保管時に非常に便利だと評判を集めました。
SHINKOタイヤを純正採用

今回のお披露目会のためにトヨタが持ち込んだGRカートは約20台。5月末に富士スピードウェイにて発表されたときはDUNLOPタイヤを装着していましたが、今回はSHINKO製のタイヤを全車装着しており、これが指定タイヤとなる予定です。SHINKOは韓国でバイク用タイヤなどを製造しているメーカーであり、かつてはYOKOHAMAカート用タイヤの製造を担っていました。SHINKOは現在自社ブランドでCIK-FIA公認のカートタイヤも製造しており、今回GRカートに装着されていたスリックタイヤ(SHE-Enduranceのモデル名が見える)は新規開発モデルと思われます。
SHINKOタイヤを純正採用した理由について、伊東氏は「様々なメーカーに打診したが、SHINKOが最も情熱を持って接してくれたため」と説明。こちらのタイヤはグリップや耐久性、そして低価格はもちろんのこと、手組みのしやすさにもかなり拘って開発を行ったとのこと。「実際に販売されたらぜひ組んでみてください!」と、その出来栄えには自信たっぷりな様子です。


また一部のマシンにはSHINKOタイヤ製のレインタイヤが装着されていました。パターンはハイグリップタイヤのようでかっこいい一方で、筆者としてはGRカートのコンセプトとレインタイヤの存在がミスマッチなようにも感じます。オールウェザータイヤ1種類に統一したほうが良いのでは?
レンタルカートとしての運用は?
4ストロークエンジン、入門者向け、そして圧倒的な低価格ということで、実のところ最も期待される部分はレンタルカートとしての運用ではないでしょうか?フルバンパー形状の「プロテクトカウル」の存在からもここは気になるポイントです。

ところが「レンタルカートと同じ使い方は難しい」というのが伊東氏の答えでした。なぜならGRカートはぶつかると壊れるため。実際に持ち込まれたGRカートはどれも使い込まれた様子で、通常では付かないはずの場所に強くタイヤがヒットした跡なども見られました。あくまでもレンタルカートからのステップアップや、一般のレンタルカートよりも速いカートに乗りたい人向けの立ち位置となるようです。
GRカートはカート界の救世主になり得るか?
やはりトヨタ自動車が開発を行っているだけあって、その作りや思想、そして圧倒的な低価格さに感嘆する一方、いくつか気になる点もありました。特に実物やその走りを見て感じたのは、「初心者向け」というコンセプトの危うさです。