2022年よりSLレースではダイレクトドライブであるKT100SDの使用が禁止され、セルモーター付きのKT100SECに一本化された。押しがけの苦労から開放され取り扱いが楽になるのは嬉しい一方で、各クラスの最低重量の変更が行われなかったことで、電装系の追加による重量増に悩まされるドライバーも数多くいることだろう。
ドライバー自身の体重をいきなり5~6kgも落とすというのはなかなか難しい。すると車両側の軽量化を図ることとなるのだが、最も手軽で有効な手段がバッテリーの変更だ。YAMAHA純正の鉛バッテリーは2.5kgほどあるところ、適切なサイズのLiPoバッテリーに置き換えることで2kg以上の軽量化が可能だ。しかもレギュレーション上も合法(※2022年のSL規定)。なかなかレーシングカートでこれほど大きく軽量化できるパーツというのも少ないので、今シーズンに向けバッテリーをすでに変更したドライバーもいるかもしれない。
しかしLiPoバッテリーは小さな体積に大きなエネルギーが収められているため、扱い方を間違えると大事故に繋がる危険性が高い。場合によっては激しく炎上する。炎上まで行かなかったとしても、バッテリーを痛めて再使用不可の状態になってしまうことも。このため鉛バッテリーとは異なる、正しい取り扱いを行うことがLiPoバッテリーを運用するためには必要である。今回はLiPoバッテリーを安全に運用する方法を紹介する。
LiPoバッテリーの安全な取り扱い方
安全に配慮された十分な出力のあるバッテリーを使用する
レーシングカートのセルモーター用として使えるLiPoバッテリーは3セル(定格11.1V)または4セル(定格13.8V)がある。セルモーターを回すだけなら4セル、データロガーの外部バッテリーとしても運用するのであれば3セルを使用する。セルモーターを回す十分な容量と放電能力のあるバッテリーを選ぶ必要がある。
後述する過充電を防ぐために、保護回路が装着されたバッテリーパックを使用する。これは市販されているほぼすべてのLiPoバッテリーパックに取り付けられている。
LiPo対応の充電器で充電する
LiPoバッテリーを充電する際は必ずLiPo対応の充電器を用い、バランスコネクタを接続し、LiPo充電モードで行う。LiPoバッテリー発火の殆どは充電設定の誤りによって発生するため、充電器の設定は必ず確認してから充電を行う。
- 充電設定:LiPo
- 充電電流:1C以下(例:3000mAhのバッテリーなら3.0A以下、5000mAhのバッテリーなら5.0A以下)
- 充電完了電圧:4.2V/cell
充電完了電圧は充電器の初期設定で4.2V/cellになっているはずなので、充電電流だけ設定すれば良い。1Cで充電すれば空の状態から約1時間で充電が完了する。
また充電中は耐火性のあるセーフティーバッグの中にバッテリーを入れておくと、万が一炎上した際の延焼を抑えられる。燃えやすいものをバッテリーの近くに置かず、充電中は常に監視を怠らず、その場を離れないことも重要。
過充電・過放電に注意する
LiPoバッテリーは電圧管理が重要。充電時の過充電(許容電圧以上になってしまうこと)については充電器とバッテリーの保護回路によって防ぐことができるが、過放電(バッテリーの容量をほぼ使い切ってしまうこと)については使い方次第で起こりうるので特に注意する。過放電をすると最悪の場合充電不可能となり、バッテリーが使用できなくなる。
セルモーターを回す際はその音や回転数に注意し、少しでもセルモーターの回転が遅くなったと感じたらバッテリーを交換する。こうするだけで過放電を防ぐことができる。
万が一過放電してしまった場合は、バッテリーが常温になった状態で充電を行えば回復する場合がある。バッテリーの電圧不足により充電できなかった場合はバッテリーを破棄する。
装着・保管場所に余裕をもたせる
殆どのLiPoバッテリーはアルミパックに包まれているような形状をしているので、バッテリーのサイズよりも狭い場所に無理やり押し込んだり、点で支えるような装着を行うとバッテリーが破損する場合がある。また劣化するとバッテリーが膨張するため、厚みに対して若干余裕を持った設置方法を行ったほうが良い。
レーシングカートに装着する際はバッテリーケースの内側に適度に弾力のあるスポンジ状のものを詰め、それでバッテリーを保持すると良いだろう。
温度に注意する
LiPoバッテリーには安全に使用可能な温度範囲がある。一般的に許容されるLiPoバッテリーの温度範囲は以下の通り。
- 使用時の温度:-20℃~60℃
- 充電中の温度:0℃~45℃
- 保管中の温度:-20℃~50℃
室温が50℃を超える場合があるため、自動車内での保管や充電は避ける。サーキットではバッテリーは風通しの良い日陰に置き、炎天下で長時間放置するような状態は避ける。気温が0℃以下の場合は家に持ち帰ってから充電を行おう。
長期保管時の充電量に注意する
LiPoバッテリーは満充電状態で長期間保管すると電池容量が減少する特性を持っている。1ヶ月以上使用する予定がない場合は容量の50~70%程度の充電状態にすると、バッテリーの寿命を伸ばす事が可能。
充電器によってはストレージモード(保管モード)という充電設定があるので、この機能を活用すればバッテリーの劣化を抑える事ができる。
LiPoバッテリーで絶対にやってはいけないこと
LiPo非対応充電器や、LiPo以外の充電モードで充電する
鉛電池用の充電器や、対応充電器であってもLiPoモード以外で充電すると非常に危険。
またレーシングカート用エンジンとしては存在しないはずだが、ジェネレーター付きでエンジンが動いている間は接続されたバッテリーに充電を行う回路になっている場合、LiPoバッテリーを使用してはならない。
バッテリーをショート(短絡)させる
バッテリーから出ているプラス端子とマイナス端子を直接つないでショートさせると非常に危険。バッテリーやハーネスの接続端子は、短絡や逆接を物理的に起こしづらくなるよう工夫された物(XT60やT型プラグ等)を使用することを推奨。また同様の理由により水没や雨が多量にかかる状況は避ける。
穴を開ける
バッテリーに釘などを指すと非常に危険。レーシングカートに装着する際は、クラッシュの際でもバッテリーにボルトなどが突き刺さらないようバッテリーケースには工夫を凝らす必要がある。また同様の理由でバッテリーを分解するのもNG。
劣化したバッテリーを使用する
劣化したLiPoバッテリーは内部にガスが溜まり徐々に膨らんでくる。これは寿命のサインでもある。過度に膨らんだ状態ではガス漏れや発火の可能性があるため、直ちに使用を停止し、各自治体の定める方法で処分する。
正しく使えば安全に運用できる
ここまで色々とややこしいことを書いては来たが、
- 必ずLiPo対応充電器のLiPoモードで1C充電すること
- ショートさせないこと
- 過度に加熱している状態のバッテリーを使用・充電しないこと
- 劣化したバッテリーを使用しないこと
等の条件を守れば、LiPoバッテリーが発火するリスクは非常に低くなる。これと同時に、
- 過放電させない
- ストレージモードで充放電した後に適温で保管する
- 時折バランス充電を行う
等に気をつけることで、バッテリーの劣化を最小限に抑えることも可能。LiPoバッテリーはラフには扱えないが、自己放電の低さ、そして軽量さを考えると、慣れてしまえば鉛バッテリーよりも扱いやすい側面もある。正しくLiPoバッテリーを使用して、安全にレーシングカートを楽しんでほしい。
記事内で使用しているバッテリーと充電器
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LiPo 14.8v 3000mAh¥8,800