2023年7月15日、全日本スーパーフォーミュラ選手権が行われた富士スピードウェイにて、レーシングカートレースGPR KARTING SERIESのプロモーターであるGrobal Promotion of Race(以下GPR)と、全日本スーパーフォーミュラ選手権(以下SF)のプロモーターである株式会社日本レースプロモーション(以下JRP)が協力体制を結んだことが発表されました。
Paddock Gateでは、2者の協力体制が発表された直後となる7月30日のモビリティリゾートもてぎにて、JRP上野社長に直接インタビューを行う機会に恵まれました。SFのプロモーターであるJRPは、なぜレーシングカートレースシリーズGPRと手を組むのでしょうか。2者の協力によって、どのような未来を実現しようとしているのでしょうか。
SF運営JRP上野社長へのインタビュー
Paddock Gate藤松(以下 藤松)―7月15日にJRPとGPRが協力体制を結ぶことが発表されました。まずはこれに至った経緯について教えてください。
JRP上野禎久(以下 上野)―JRPでは2022年に国内トップフォーミュラ50周年(※1973年の全日本F2000選手権開幕から)を迎えたことで、『SUPER FORMULA NEXT50』というプロジェクトをスタートさせました。これは次の50年に向けた、モータースポーツを支える人を育てることが一つの目的です。ここで言う人とはドライバーだけでなく、メカニック、エンジニア、そしてファンの方々も含みます。私はかねてよりGPR松浦代表と親交があったのですが、その松浦がプロモーターとして活動し始めたことを知り、私から「協力しようよ」と声をかけました。彼もGPRシリーズでジュニアやカデットに力を入れており、次世代のモータースポーツの人材を育てていこうという意見が我々と一致しています。ぜひとも同じプロモーターとして連携して、お互いを支え合っていこうと話をしたのが、今回の協力体制に至ったきっかけです。
藤松―現時点でその「協力」とは具体的にどのようなことになるのでしょうか?
上野―具体的な部分はまだ決まっていません。ただ発表の翌日にGPRに出場するジュニアドライバーをSFのパドックに招待しました。これはSFがジュニアドライバーにとって目標となるカテゴリーになって欲しい、そういう場所を見てほしいという意図がありました。またレーシングカートからSFに直接行くことはできないので、直接的にスカラシップを結ぶというのもありません。しかし、間接的に我々がGPRシリーズを支えて、GPRに出ていた子どもたちが10年後にSFに上がるような、そういう取り組みができないかな?と議論を始めたところです。
藤松―ところで上野さんは国内トップフォーミュラの運営を行っていますが、レーシングカートの世界についてはどの程度の理解があるのでしょうか?
上野―私自身は元々鈴鹿サーキットの広報に居まして、その前には鈴鹿サーキットでモータースポーツ運営を担当していました。実は鈴鹿南コースができる前から所属していたので建設にも携わっていて、コース図を書く場面にも同席していました。初めてのCIK国際格式レースの開催も行ったので、カートに対しての知識や経験、関心も強くあります。モータースポーツの入口としてカートは非常に重要なカテゴリーだと、体感的にも体験的にも感じています。今はカート人口がすごく減ってしまっていますが、ここを膨らましていかないと10年後20年後のドライバーがいなくなってしまいます。このカテゴリーを活性化したいというのは以前から思っていました。
藤松―ヨーロッパにはレーシングカートのプロフェッショナルドライバーが多数居ます。しかし先程のビジョンの話だと、カートドライバーをフォーミュラに連れていきたいという話にも聞こえました。それは優秀なカートドライバーをフォーミュラに流出させているだけのようにも聞こえます。
上野―例えば国内トップフォーミュラがF3000の頃に、星野一義をやっつけてからF1に行った人がたくさんいるじゃないですか。あの構図にすごく似ていると思います。カートはカートの世界でプロのドライバーがたくさんいて、そこで将来を目指す人もいれば違うカテゴリーに行く人もいる。カートのプロはカートのプロで居るべきですが、上を目指してカートを通過点…というと語弊があるかもしれませんが、ステップアップカテゴリーと捉えていく人もいます。長年カートの世界で活躍する本当のプロの人達に勝たないといけないという、良い意味での物差しになっているといいなと思います。
藤松―しかしカートとフォーミュラは全く違うカテゴリーですよね。何度かフォーミュラが”上”という表現をされていますが、FIAの構図を見れば明らかなように、それぞれのカテゴリーは別々のピラミッドを形成しています。もちろん様々な見方はありますが、カートを物差しにするというのは、WRCの結果を見て、そこからF1ドライバーを選ぶようなものではないですか。
上野―なるほど、それはカートの世界の人達が感じていることかもしれないです。でも実際に今我々の世界で走っているドライバーたちはほぼほぼステップアップとしてカートをやってきた人じゃないですか。カートとフォーミュラには何らかの関連性はあると思います。決してプロフェッショナルなカートドライバーを否定する意図はありません。
SFを通じてカート人口を増やしていきたい
藤松―ところで、SFは国内トップフォーミュラとして50年続く素晴らしいシリーズであることに疑いようはありません。一方でプロモーターという観点からすると、スーパーGT(以下SGT)に比べてSFは観客動員数が少ないのは事実です。私はJRPとGPRが連携することによって両者の観客数や参加人数が増えていくのが正しい姿ではないかと考えますが、今回の協力体制にはそこに至るまでの道筋があるのか、という点は疑問に感じています。
上野―まずSGTとの比較という点でお話します。SGTとSFを比較することはもちろん様々な評価基準がありますが、そもそもこれらは根本的に違うスポーツなのです。
藤松―マシンがツーリングカーかフォーミュラカーかということ以上に、ですか?
上野―SGTは複数のドライバーが市販車をベースとしたマシンに乗り、様々なタイヤ、メーカー、ドライバーが参加しています。ドライバー1つとっても元F1ドライバーからジェントルマン、若手まで様々です。陸上に例えれば、少し語弊があるかもしれませんが、SGTは東京マラソンです。トップはオリンピッククラスの人がいて、下には普通の一般市民がいる。対して我々SFはオリンピックの100m競争なんですよ。SFは選ばれた本当のアスリートたちがスポーツとして競う場。いろんな人が出場できるSGTはちょっと違うスポーツなんですね。観客動員数の話が出ましたが、SGTはSFに比べてドライバーの数が3倍、メーカーの数は4倍、レースクイーンの数は10倍ぐらいいます。もちろんそういうのは一つのエンターテイメントの形ではあります。ただ私達は、そういった興行的な楽しさを提供するのはもちろんですが、モータースポーツが純粋なスポーツとして社会に評価されるためにはフォーミュラーカーのほうが正しい姿だと思っています。
藤松―それはどういった点で正しいのですか?