みなさんがカートレースに参戦している最中は、目で周囲のカートを確認して、それに合わせて手や足でマシンを操作していると思います。自分自身も周りも高速で動いている時、重要になるのが「動体視力」と呼ばれる能力です。
この動体視力とはそもそも何なのでしょうか?そして、どうすれば動体視力をより高められるのでしょうか?
視覚情報の処理
その前にまずは、目から入ってきた情報が脳の中でどのように処理されているかを知る必要があります。
目から入ってくる情報は脳の後頭部に届けられ、そこから情報は側頭部あるいは頭頂部で分析されます。側頭部に送られる情報は静止した情報を処理し、頭頂部では動いている情報を処理します。
カートレースで目に入ってくる情報は動いているので頭頂部で処理されると考えられますが、自分自身と周りのカートが同じスピードなら「静止」状態になり得ます。静止した視覚情報は、側頭部からさらに前頭部の脳へと送られます。
動体視力とは
動体視力とは、視界から情報に反応し行動に移す能力ことです。また、単に動きの速いものを目で追えることだけではなく、それに合わせて正しく体を動かせる能力がスポーツにおいては必要です。この速いものを見る能力それに合わせて体を動かす能力の2つを合わせて「動体視力」と呼びます。
それでは、動体視力を高める方法を実践していきましょう。
動体視力を高める方法
同時に複数の物を見る練習
額あたりにある脳の部分を前頭部と呼びます。前頭部は側頭部からの視覚情報を過去の経験やレース中の感情に照らし合わせ、意思決定を行っています。1台のカートを見るだけなら瞬時の意思決定に問題はないのですが、同時に複数のカートを見るとなると意思決定が遅れます。
動的視力を高めるには、日ごろから同時に「複数の物を見る」訓練が必要でしょう。見るだけでなく、素早く行動を起こす訓練も必要になります。例えば「もぐらたたき」で全ての穴を見て反応できるようにする、などです。ただカートレースは自らも動いているので、バスケットボールの3対3のような味方と相手、ボールを同時に見るような練習が有効です。
カートレースでは周囲を走るカートのエンジン音も感じながらライン取りをするはずです。視覚に加え、聴覚、頭の動きなど複数の知覚情報を処理する訓練も、動体視力を高めることに繋がります。
視覚と指先の連結
視覚と指先の動きは連結することができます。慣れればかなりの精度で、しかも反射的に、無意識に目からの情報とハンドル操作が一致するようになります。この自動化するためには日ごろのカート練習に加え、「ミス」の経験が必要になります。そしてミスの原因を学ぶことが大切になります。
頭の動きと眼球の連動
バックミラーがないカートは視野の限界から頭や体を動かします。左右の頭の動きと眼球の動きも連動していますので、間接的に頭の動きと指先も連動します。
しかし慣れていなければ、頭の動きは操作ミスを引き起こすかもしれません。操作ミスを無くすためには、そのような動きを普段から練習し、頭を動かせることが重要です。
動体視力と注意力
カートの速度変化から前後左右の相手カートの位置が変化するなら、目からの情報は頭頂部に向かうことになります。この時必要になるのが注意力です。注意がなければ動いている視覚情報は認識されないためです。
動体視力の弱点
動体視力には2つの弱点があります。
1つ目は費用対効果の代償です。相手が予測通りの動きなら反応は速く、外れれば余計に反応時間がかかることを指します。例えば、前に走る相手の癖を知っているなら、攻めるタイミングを狙って抜くことができるでしょう。しかし相手がいつもと違うパターンで走ったなら、タイミングは遅れます。
2つ目は相手のフェイントに惑わされることです。逆に自らカート操作で少しでもフェイントができるなら、相手の反応を遅らせることができます。
想定内の容量
最後に、レース中の動体視力を高めるには如何にして想定内の容量(キャパ)を増やせるかになります。熟練のレーサーなら、カートレース中に起こり得ることは事前に頭に入れていると思います。しかしレース中に突然の衝突や予想外の出来事が発生した時は注意力が逸れ、動いている視覚の処理に影響を与えます。
またレース前にアドバイザーなどから走行テクニックのアドバイスがあったなら、それを思い出すたびに自らのカート操作に影響を与えるかもしれません。それに脳の処理能力を使ってしまっているためです。
ヒトの神経回路はインターネットの「光ファイバー網」のように取り換え、速度を上げることができません。しかし同時に複数の情報処理する能力を鍛えることや、事前の想定内キャパを増やすことで、動体視力を高めることができます。