「優勝賞金300万円の使い道は?」
国内最高賞金額レースであるHYPER KARTでドライバーにその質問をすると、若手ドライバーのほぼ全員から「四輪レースをするための資金にします」という答えが返ってきた。彼らのプロレーシングドライバーを目指す志には強い共感と応援の気持ちを持つ一方で、一人のレーシングカートファンとしては複雑な気持ちにもなる。
今やカートはFIA-F5になってやしないか?
「カートはF1ドライバーへの踏み台」という誤解
レーシングカートはフォーミュラの下位カテゴリーではない。F1を頂点としたフォーミュラピラミッド、WRCを頂点としたラリーピラミッドの隣に、OKやKZを頂点としたカートピラミッドが立っている。これはFIAの年間表彰式でF1チャンピオンとWRCチャンピオンに並ぶ形でカートの世界チャンピオンが表彰されることからも明らか。
実際に全日本スーパーフォーミュラ選手権と全日本カート選手権OK部門は、JAF管轄の全日本最高峰カテゴリーという点で同格である。もちろん全日本ジムカーナや全日本ダートトライアルの最高峰カテゴリーだって同格のはずだ。あえて嫌味な表現をすれば、全日本カート選手権を経てスーパーFJやFIA-F4に参戦するのは、ある種のステップダウンにも見える。(※S-FJやFIA-F4はJAF地方レース選手権)
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フォーミュラとツーリングカー(箱車)が別の乗り物であるように、それらとカートも別の乗り物、別のカテゴリーである。機械的に見てもサスペンションもディファレンシャルギアも無い乗り物がそれらと同じはずがない。だからカートからフォーミュラなどへ戦う場所を変えることは「転向」であって、本来はステップアップでもステップダウンでもない。
それなのになぜか、カートは未来の角田裕毅やマックス・フェルスタッペンを生むための踏み台の一つに過ぎないと、あらゆる場面で捉えられている。多くの人や一般メディアはもちろん、カート業界に関わる人でさえその考えに深く囚われている。
レーシングカートは単に子どものための舞台ではなく、大人にとっては生涯を通じた趣味でもある。さらにプロスポーツの側面も持つという正しい認識を伝えなければならない。そう評価されたとき、このスポーツの隠されてきた本質がようやく日の目を見るだろう。
なぜカートは子どもの乗り物だと勘違いされるのか
さまざまなモータースポーツカテゴリー間の違いはおそらく、野球とクリケット、サッカーとフットサルなどの関係に近い。例えばテニスと卓球とバドミントンは、ラケットを用いて球やシャトルをネット越しの相手に飛ばすスポーツという点で共通している。しかしラケットの振り方や試合の運び方は全く異なる。ゆえに世界最高のテニス選手がバドミントンでも第一線で活躍できるとは限らない。そんなことは体育の授業を真面目に受けた人であれば誰だって想像できる。
思うに、カートがフォーミュラの下に見られてしまう理由は主に2つある。1つはカートならではの理由のため、もう1つはこれまでのマーケティングの失敗によるものだ。