フィクションなんですが、僕が子供の頃のカート場といえば、後部座席の下にシャフトと並んで木刀が収納されているトランスポーターが何台かいたものです。なんのためにそんなものが用意されているのか、持ち主に詳しく話を聞くまでもなく、レース中にやれ子供がクラッシュしただとか、エンジンが速すぎるので違反ではないかだとか、そういう話が出てくるたびにその木刀が姿を表すのです。運がいいのか悪いのか、僕はその木刀が血を吸うところは見た記憶がありません。ちなみに、Φ30のシャフトは太さがちょうどよくて握りやすい上に重量があるので威力が高いだとか、いやいやステアリングシャフトの軽量さと適度な長さが扱いやすいだとか、いっそのこと車ごとサーキットに突っ込むのがいいのではないかとか、そんな話を耳にしたこともあります。まぁ、最初にも言ったとおりフィクションなんですけど。
レーシングカーターのマナーって…なところあるよね
はっきり言ってレーシングカートの人たちのマナーはあまり良くないと感じています。今やタバコを自由に吸える場所のほうが少ないこの世の中ですが、各サーキットは喫煙場所をきちんと設けてくれています。それにも関わらずピット内で喫煙している人の姿はよく見かけますよね。タバコを吸いながらガソリンとオイルを混合するのは流石に危険だと思いますが、割といます。他にも、近くて便利だからと駐車場外の適当な場所に車を止めたり、サーキットによっては禁止されているはずの場所取りを行ったりすることもあります。おそらく皆さん「あまりいいことではないな」と思いながらも、めんどくさくてついやってしまうのだと思います。実際僕も煩わしくて適当にこなしてしまったがゆえのマナー違反、なんてことはこれまで数え切れないほどやってしまっていますから、あまり彼らを強く非難することもできません。もちろん全てのユーザーがそうではなく、一部の人々の行動が目立って見えているだけでしょう。ただ、「レーシングカート参加者のマナーってあんまりよくないよね」という印象は強くあります。
とある全日本カート選手権直後のSNSへの書き込み
ところで、今年のとある全日本カート選手権のレース直後に、ちょっとした問題が発生しました。簡単に言うと、サーキットスタッフを名乗る人物が「全日本カートの参加者はマナーが悪い」とSNS上で書き込みをし、それが拡散されてしまったのです。すでに削除されたその投稿によると、自動販売機の脇に用意された缶・ペットボトル用のゴミ箱の前に大量にゴミ袋が積まれていたり、パドックのあちこちにゴミが放置されていたり、可燃物と一緒にオイル缶やスプレー缶がまとめられたゴミ袋があったり、廃タイヤが置かれていたり、あちらこちらに吸い殻が落ちていたりしていたようです。さらには入口付近に無断駐車された関係者の車両により、レース中に呼んだ救急車がコースに入ることができなかった、という事件もあったとのことです。その投稿に対し「他のイベントでここまでひどい状況になったのは見たことがない」「全日本カート選手権はクズの集まりだ」という趣旨の発言も数多く寄せられていました。
実は似たようなことはそのサーキットでは毎年発生していて、パドックに散乱したゴミや吸い殻の写真が添付された投稿をきっかけに、同調した人々が全日本カート選手権を酷評する、というのがお決まりの流れです。つまり、どうやら某サーキットは毎年レース後のゴミに頭を悩ませていたようです。さらに今年の投稿には今までにない点がいくつかありました。それは
- サーキットスタッフを名乗る人物の投稿であったこと
- ゴミを放置した集団が容易に特定できる写真があったこと
- とある関係者の呼びかけによりその投稿が削除されたこと
です。これらは僕の知る限りこれまでに起こっていなかった出来事で、なにか新しい動きがあるのではないかと期待したのですが、今の所は特に何も起こっていないようです。
ゴミの分別はどれほどの問題なのだろうかと話を聞いてみたところ、あるサーキットでの全日本カート選手権レースウィークは、走行終了後に参加者が出したゴミの分別を行うにあたって、毎日およそ2時間程度の時間がかかるそうです。ゴミの分別に関しては自治体によってルールが大きく異なる場合がありますし、そもそもゴミ処理場の処理能力が大幅に向上している昨今にゴミの分別そのものが必要なのかという疑問もありますが、僕らがめんどくさいからと可燃物・不燃物・缶・びん・ペットボトルを分別しなかったがゆえに、レースの運営をしてくださるスタッフの皆様に毎日多大なるご苦労をかけてしまっていることは事実のようです。ゴミの分別に余計な体力を使ってしまったがゆえにレースの進行がスムーズに行かなくなる、なんてこともあるのかもしれません。
ゴミの持ち帰りがルールだった
さて、某サーキットに対しても我々はゴミの分別や処理で多大なご迷惑をおかけしてしまったのですが、少し気になる点は”某サーキットではゴミの持ち帰りがルール”であることです。ゴミが散乱しているのはもちろんなのですが、そもそも捨ててはいけなかった場所にゴミを捨ててしまったわけで、一種の不法投棄に値してしまうのではないかとも思われます。なぜ参加者はそんなことをしてしまったのでしょうか?いくつか理由を考えてみました。
1.サーキットに嫌がらせをしたかった
さすがにひねくれ過ぎではないでしょうか。おそらくカルシウムが足りていないでしょうから、牛乳やチーズ、小魚などを食べることをおすすめしたいです。休息を取ることも大切でしょう。ちなみに、よほどの栄養失調状態でない限りカルシウム不足によってイライラする事はほぼ無いらしいですが、医学を学んだことがないので正確な事はよくわかりません。
2.持って変えるのが面倒だった/持って帰られる量ではなかった
気持ちはわかります。木曜日からコースに入れば4日分となるゴミを持ち帰るのはなかなか一苦労です。一人分ならまだしも、全日本カート選手権ではドライバーやメカニックの他に、保護者や応援者まで来ることがありますから、それらを全部持ち帰るとなると結構な量になります。トランポの荷台いっぱいに荷物を積んできたのに、それ以上何かを載せる余裕がない場合もあるかもしれません。
3.持ち帰りがルールだと知らなかった
参加者の何人かに話しを聞いてみましたが、ゴミ持ち帰りがルールであることを知らない人がそれなりにいました。もちろん全員が知らなかったわけではありませんが、当該施設内に一箇所だけある「ゴミは持ち帰ってください」との旨が書かれた看板以外で、ゴミの持ち帰りを促しているものを僕は見たり聞いたりしませんでした。
知らされていないルールは守れない
というわけで3.の可能性が最有力でしょう。大多数がゴミの持ち帰りルールを知らないためゴミをその場に捨ててしまい、そこに持ち帰りがルールだと知っている人も便乗したのではないでしょうか。僕はそのサーキットを訪れたのは今年で2回目でしたが、ゴミ持ち帰りがルールだと知ったのは今年であり、それはレース終了後に偶然その看板を発見したためです。全日本カート選手権を複数回開催しているサーキットですので、流石に確信犯も多くいるのではと思いますが、参加者の入れ替わりはある程度あるので、知らない人も同じぐらいいることでしょう。
周知していない事に対して「それがルールだから」と非難するのは単なる後出しジャンケンに過ぎません。まずはそのルールを参加者に浸透させるよう、受付や放送で呼びかけ、パンフレットに記載し、自販機などの目に入りやすいものの近くに看板を建てるなどの処置が必要だと考えます。その上で改善が見られない場合は、なにか別の処置が必要でしょう。何回もレースを主催し、そして毎年のように同じ問題が発生しているのですから、普通であれば何かしらの改善策を打ち出していてもいいはずです。そして、不平不満をSNSに書き込むのではなく、その前に参加者と顔を合わせて話し合うべきではなかったのでしょうか。共にモータースポーツを盛り上げていく仲間として、参加者のことを悪く言うのではなく、イベントの特性を理解し歩み寄る姿勢が必要だったのではないでしょうか。
より気持ちの良い環境を作るのは参加者自身
今回の場合は、ゴミの持ち帰りを周知していなかったサーキット側にも難点がありましたが、やはり問題の根本は僕たちレーシングカーターのマナーがとても良いとは言い難いところにあると思います。今回の一件での具体的な点をもう一度並べてみましょう。
- 明らかに分別すべきゴミをひとまとめにしたこと
- パドックのあちこちにゴミを放置したこと
- 無断駐車をし緊急車両の侵入を妨げたこと
- 指定区域外で喫煙をし、吸い殻をポイ捨てしたこと
- 廃タイヤを捨てて帰ったことと
- ゴミの持ち帰りがルールと知りながら便乗し捨てていったこと
これらは全て完全なマナー・ルール違反です。もちろん全ての参加者がこのような行動をしたわけではありませんが、一人一人の僅かな「まぁいっか」がこのような結果を生んでしまったのでしょう。おそらく僕も無意識にやってしまったことも中にはあると思います。今回は某サーキットを上げましたが、これはどのサーキットでも起こりうる、あるいはすでに起こっている問題です。もはや木刀を持ち歩く時代は終わりました。一人一人がマナーを守り、サーキットがよりクリーンで楽しげで、つい行きたくなってしまうような雰囲気になることを期待するばかりです。
文・藤松楽久