2020年4月9日から4日間にわたり行った、「新型コロナウイルスのカートレースへの影響についてのアンケート」の集計結果に基づく考察を行う。
「新型コロナウイルスのカートレースへの影響についてのアンケート」の集計結果を発表 | Paddock Gate
2020年4月9日から4日間にわたり行った、「新型コロナウイルスのカートレースへの影響についてのアンケート」の集計結果を発表します。
アンケート結果から読み取れること
今回のアンケートは全回答数が626件。回答者がレーシングカートへどのように関わっているかは図1の通り。
サーキット/インポーター/メーカーまたはカートショップ/エントラントからの回答を「販売者」(61件)、それ以外からの回答を「購買者」(565件)と分類した。世界全体に影響を与えている感染症に対する意識調査であったため、あえて地域や年齢といった区分を設けていない。
8割弱が新型コロナウイルスを脅威に感じている
全回答者の内78.0%が新型コロナウイルスについて何らかの脅威を感じていることが図3から判明。一方で脅威をあまり感じていない回答者は9.6%存在した。
影響を危惧し始めた時期を回答者別にみていくと、主に販売者は2月以前、購買者は3月以降に影響を感じ始めた傾向が見える。
販売者は経済的理由で営業を継続せざるを得ないが、1/3は売り上げへの影響が無い
販売者の29.5%が「積極的にレースを自粛すべきだ」と考えている(図6)一方で、78.7%は積極的・消極的な営業活動を行っている(図4)。これは40%以上の事業者が回答した通り経済的な不安に原因がある(図5)。感染拡大を防ぎたい気持ち以上に、経営破綻を恐れていることは明らか。
一方で図8を見ると、32.8%の販売者は現時点で「売り上げへの影響がない」と回答。確かに残りの2/3の販売者は売り上げの減少があったと回答したが、2名の回答者のように、何らかの方法によって売り上げを向上させることも可能であることも判明。しかしイタリアの経済活動停止が長期化することによって主な商品の入荷が無い今、対策を行わない限りは今後売り上げが減少へと移行していく販売者が増加することが予想される。
購買者の7割はレース開催に反対している
販売者の27.9%が、顧客からの最も多い声として「レースに参戦したいし、練習もしたい」を選択している(図7)。その一方で、購買者の67.9%はレース開催に反対と回答(図10)。購買者の過半数はレース開催に否定的であると、販売者は認識を改める必要があるだろう。
人が集まること自体が新型コロナウイルスの感染を広げる要因とされており、それゆえレースを開催しても参加者数が減少する可能性がある。54.2%の購買者は「感染拡大を防ぎたい」と考えている一方で、「シリーズポイントを考えるとレース参戦せざるを得ない」と回答した購買者は19.1%であり(図12)、シリーズ戦開催はユーザーにとって一定の強制力を持っている。現時点で積極的にレース開催を行うことは、感染拡大と収益の減少、そして顧客からの信用喪失という危険をはらんでいる。
練習は可能と考える購買者が5割存在する
図11を見ると、現状況下における練習走行に問題が無いとする購買者は23.9%、中間層を含めると55.6%は練習が可能であると考えている。反対の立ち位置を取る購買者の中にも「出来る事なら練習したい」という趣旨の回答が多く含まれており、レーシングカートに乗りたい欲求を持つ人は多いことが判明した。
図9の中から「ドライバー/メカニック(現在休止中も含む)」のみの回答を集めたのが図14である。これを見ると、回答者の半数は5月末までに練習・レースを予定している。彼らの要望に応えながら、適切な感染拡大防止対策を行うことが、販売者がコロナショックを乗り切るために必要な対処だろう。
コロナショックを乗り超えるための提案
大前提:緊急事態宣言では人との接触を8割減らすことが求められている
日本政府は緊急事態宣言を発令させ、期間中は人との接触を8割減らすことを求めている。これは社会機能を維持しながら爆発的な感染拡大を防ぐための手段であると政府は説明している。政府の試算によると、国民全員が8割の接触削減を行った場合、発令から2週間後には感染者数は減少に転じるという。
上記の観点からすれば、娯楽産業であるレーシングカートは自粛されるべき「不要不急の外出」であり、レースも練習も行わないことが最大の感染拡大防止対策であるとされるだろう。
確かに、日本政府の発令する緊急事態宣言は、諸外国のそれと比べると規制の範囲が非常に緩いため、通常営業ができないこともない。しかし未知のウイルスに感染するかもしれないという事実は、海外の状況と何ら変わりがない。さらに考慮すべき点は、数週間後に緊急事態宣言が解除されたとしても、突然感染リスクがゼロになるわけではないことだ。
今やるべきことは、緊急事態宣言が解除され、段階的に経済活動が再開されていく過程において、感染リスクを抑えながらレーシングカートユーザーを満足させる方法を考えることにある。人との接触を避けることを大前提としつつ、レーシングカート界がいち早くコロナショックを乗り超える方法を探っていきたい。
なお、以下の提案については地域による状況の差を意図的に考慮していない。
消極的な営業に切り替え、ユーザーが安心できる環境を作る
新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐためには「密閉」「密集」「密接」を防ぐことが重要であるとされている。幸いなことにレーシングカートが楽しめるサーキットのほとんどは郊外に位置し、都市部よりもはるかに人が少ない。しかしその一方で、現状で積極的に人を集めてイベントをするというのは、感染リスクと同時に購買者の反感を得るという点で危険性が高い。購買者に安心して走行してもらうためには、
- 積極的に人を集めないこと
- サーキットにいる人数に制限を設けること
- 可能な限りの感染拡大対策を行うこと
が必要だ。なにもレースを行うことだけがビジネスではないはず。これらの対策を行いつつ、通常営業ができない今だからこそ新規顧客の獲得も狙えるような方法を考えていきたい。
サーキットを地域住民の遊び場として活用
緊急事態宣言発令地に位置するためすでに営業を中止していたり、営業時間や日数を削減しているサーキットが存在する。一方で、その地域の住民の多くは外出自粛を要請されているため、子供の遊び場が無いなどといった問題が発生している。実際にアンケートにも「ずっと家にいるとストレスがたまりそれはそれで健康に良くない」といった回答が寄せられている。
ほぼすべてのサーキットには十分な駐車場スペースが存在するだけでなく、コース上は十分に広く、一般的に騒音の問題から住宅地から隔離された場所にある。これを活用し、地域住民の遊びの場として活用してはどうだろうか。それぞれは自家用車で来場し、遊び道具は持参してもらう。特に自転車やキックボードなど、アスファルト舗装があるとより楽しめる遊びにとってサーキットは好都合である。常設ピットを活用したソーシャルディスタンスの確保や、若干の入場料を設けつつ来場者数の制限を行うことも可能だろう。まずは従来の顧客に向けたアピールを行い、彼らの友人たちへと小さく広げることで、非積極的に当該営業を周知される。
サーキットはその騒音問題やイメージから地域住民にとって悪の存在となることが多いが、この機会にそのイメージから脱却、さらに将来の顧客確保に繋げる方法を模索していきたい。
サーキット・ショップは予約制を導入
緊急事態宣言が解除され、状況が徐々に回復していく過程において、サーキットは予約制を導入することが善策だと考える。サーキットの規模に応じたキャパシティを定め、予約者のみが練習走行できるようなシステムを導入することで、感染拡大を防ぎたい。
サーキット密集地の場合は、削減する営業日を近隣のサーキットと協力して分散させることで、顧客の奪い合いを避けることができる。走行予定だったサーキットは休日ないしは予約が埋まっていたために、別のサーキットを選ぶユーザーも現れるだろう。
これはショップ主導で行うことも可能だ。当該サーキットを利用している各ショップ同士で話し合い、各々のキャパシティに沿ってユーザーの走行数を制限する。予約数に応じてサーキットサポートを行えば、収益性は確保できる。
そこにいる人数が限られるため、ユーザーは安心してサーキットに行くことができるほか、活動を自粛しているユーザーが、自粛しないユーザーよりも損をするという不公平感を打破できる。特に新型コロナウイルスの影響によって平日の休みが増えた人は一定数存在するため、平日から週末にかけてまんべんなく走行者を振り分けることができるだろう。
インポーターは今求められているものを仕入れ、ショップ経由で販売
イタリアの経済活動は停止され続けているため、多くのインポーターは商品の仕入れを行うことが困難である。仮に予定通りに経済活動が再開されたとしても、素早い生産再開や、これまで通りの輸入ルートの使用ができるかどうかは不明。場合によっては商品価格の上昇が免れない事態に陥る。各インポーターは連携を取って、顧客にとって最善となる方法を探っていく必要がある。
現在インポーターが可能なことは、その幅広い仕入・販売ルートを最大限活用し、人々に広く求められている物を販売することではないだろうか。すでに日本を含めた世界各国でマスクや消毒液の生産が多く行われている(レース産業でも手持ちの原料を利用してマスクを生産しているメーカーが存在する)ので、これらを販売することが良いだろう。ただしこれらは手に入りずらい状況にあり、かつ経済活動が休止している地域との取引が主なインポーターが多いため、実際にはそう簡単ではないかもしれない。
新たに取り扱いを開始した商品は、出来る限り従来の販売ルートである全国各地のレーシングカートショップにて販売する形を取っていただきたい。こうすることでカートショップは従来の顧客はもちろん、新たな顧客の獲得に繋がり、レーシングカートの競技人口や、企業の社会的責任として地域への貢献に繋げてほしい。
各種支援策を活用し生き残りを図る
経済産業省の特設ページに新型コロナウイルス感染症関連の企業や個人事業主に向けた支援策がまとめられている。それぞれに必要なものを活用して事業の継続を行っていきたい。
安心してレーシングカートを楽しめる環境にいち早く戻すために
この新型コロナウイルス感染症が蔓延した世界においては、仮にレースに出場したとしても、それを嬉々として誰かに伝える事はためらいを感じてしまう。事態の収束は、特効薬が開発されるか、または全ての人が感染してしまうかのどちらによって行われるだろうが、現状日本は後者の選択肢を取っていない。私たちは特効薬が開発されるその日まで、正しく感染拡大を抑えながらこらえ続ける必要に迫られている。
一つ吉報があるとすれば、アンケートに協力していただいたレーシングカーターが、このマイナーなモータースポーツをとても深く愛していることである。アンケートのそれぞれの回答から、それは強く伝わってきた。誰もが安心してサーキットに集い競い合える日が一日も早く来ることを目指して、一人一人が最大限の努力を重ねていかねばならない。
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