四輪の世界では最近「トラックリミット」なるワードを多く耳にするようになった。ここで言うトラックとはもちろんサーキットのことであり、トラックリミットとはすなわち「コース上の走行可能範囲の限界」を指している。近年国際格式の四輪サーキットでは安全上の理由からランオフエリアもアスファルト舗装されることが増えてきたが、これによってコーナーによってはランオフエリアまで飛び出したほうが速い場合が出てきた。これを是正するためにF1では2016年からセンサーによる走路外走行(四輪脱落= 四脱)の監視を行っているが、未だに数多くの議論を巻き起こす悩みのタネとなっている。
レーシングカートにおけるトラックリミットとは
そんなトラックリミット、レーシングカートの世界でも時折話題にも上がるが、2021全日本カート選手権オートパラダイス御殿場大会ではこれがレース結果に少なからず影響をもたらした。走路外走行を行うと以下のペナルティが適応されたためだ。
- タイムトライアル:トップタイム抹消
- 予選・決勝ヒート:走行時間に5秒加算
オートパラダイス御殿場では以前よりホームストレート~1コーナーのアウト側に幅2~3mほどのアスファルト舗装されたエリアがあり、その上がレコードラインとなっていた。すなわちトラックリミットを取り締まること無く競技が行われていた。この状況は問題視されていたらしく、サーキットは白線を1mほど外側へずらしコースを拡張、その代わりとして走路外走行を厳しく取り締まることとしたのだった。
この大会の場合、厳重に監視されていたのは1コーナー。アウト側にあるオレンジ色の縁石にリアタイヤが乗るとギリギリで白線の外側にマシンが出てしまうようなコース設定になっていた。ブリーフィングを含め競技長が都度勧告を行い、レース中は定点カメラを設置して監視が行われていた。3コーナーや8コーナーの外側にもマシンがはみ出せる舗装されたランオフエリアがあり、練習走行で時折飛び出してしまうドライバーも見受けられたが、レース中に当該箇所でペナルティを取られたドライバーがいたかどうかは不明。
他にも四輪脱落が起こりやすいのが茂原ツインサーキット。全日本カート選手権が開催される東コースは四輪用のミニサーキットなので、コーナーによってはカートがまるまる一台収まってしまうほど大きな縁石が何箇所か存在する。2019年より極端なインカットを防止するためにシケインの内側にプラスチック製のバリアが設置されたが、それでもなお四輪が白線の内側に収まっている。
JAF国内カート規則には記載されていない
よくこの手の話題になると「白線はコースに入るか否か」という問題が出てくる。一般的には白線上にタイヤがあればコース内に収まっている=四輪脱落ではないとされるが、ルールを確認するためにJAFの規則を確認してみよう。JAF国内カートコース公認規定には以下のような項目がある。
第11条 安全基準
2.コースの基準
以下の基準が適用される。3)走路の幅員:
(1)最小 7m
但し、1993年12月31日以前に公認されたコースには適用しない。
(2)最大 12m ただし1.5mの余裕を認める6)路面
JAF国内カートコース公認規定より抜粋
全コースについて同一とし、舗装とする。
ではその走路の幅員はどのように定義されるのか?一般的に考えれば先程出た話の通り両端の白線までということになるはずなのだが、なんとJAF国内カートコース公認規定にはそもそも白線の話が記載されていない。これ故どこからどこまでがコース幅と定義されているのか判断がつかない。もしかすると白線はコース外だとされているかもしれないし、そうでないかもしれない。
一般的にコーナーに設けられた縁石はコースではないとされている。「全コースについて同一とし、舗装とする。」という規則があるので、アスファルトではなくコンクリートで作られた縁石はコースと同一舗装ではない=コースではないと判断できそうなのだが、ここで一つのサーキットが思い浮かぶ。琵琶湖スポーツランドだ。ご存じの方もいる通り、琵琶湖スポーツランドは基本的にアスファルト舗装ながら一部がコンクリート舗装となっている。琵琶湖がJAF国内格式を取得できるということは、縁石もコースとして公認されてるサーキットが存在しうるかもしれない。…まさか、琵琶湖のコンクリート舗装部分はコースでは無い…?
結局のところサーキットの正確な形状はJAF公認取得時に提出されたカートコースの図面を見るほかに確認のしようがない。ところがそれは公開されていないので、一般ユーザーは本当のコース幅を知り得ないということになってしまう。これは困った。
四輪脱落のペナルティはサーキットによって変わる
走路外走行でのペナルティについては、JAF国内カート競技規則に記載が無い。ひとまず2021年全日本/ジュニアカート選手権統一規則を見てみよう。
2021年全日本カート選手権統一規則
第30条 その他競技に関する一般事項
7.レース中は、コースを外れてショートカットすることは認められず、当該行為はコースアウトとみなされ、ペナルティの対象とする。
第38条 ペナルティ
<ペナルティの例>
2021年 全日本/ジュニアカート カート選手権統一規則 より抜粋
(13)ショートカットとなるコースアウト
⇒1周減算
(27)これらを含みその他のペナルティについては、特別規則書または公式通知等にて通知もしくは競技長によって勧告され、審査委員会により課される。
ショートカットする行為については明確にペナルティの対象となっている。しかし多くの場合問題になるコーナーアウト側のはみ出しについてはペナルティの対象とはされておらず、ペナルティの例に記載も無い。ただし、JAF国内カート競技規則には、
第3条 カート競技の規則
カート競技は、国内競技規則、JAF国内カート競技規則、およびそれに基づく諸規則、諸規定と、個々のカート競技の組織者が定める特別規則によって規制される。したがってこれらの規則に準拠することなく、カート競技会を組織し、あるいは開催してはならない。
JAF国内カート競技規則
とあるので、四輪の競技規則であるJAF国内競技規則を更に参照する必要がある。国内競技規則細則として定められている国際モータースポーツ競技規則付則L項には、以下のような項目が存在する。
第4章 サーキットにおけるドライブ行為の規律
第2条 追い越し、車両のコントロールと走路の範囲
c)ドライバーは常に走路を使用しなければならず、正当な理由なく走路を離れることはできない。疑義を避けるため、走路端部を定めている白線は走路の一部と見なされるが、縁石は走路の一部とはみなされない。
国際モータースポーツ競技規則付則L項より抜粋
「ドライバーは常に走路を使用しなければならず、正当な理由なく走路を離れることはできない」とあることから、走路外走行に関してはペナルティの対象になりうると判断できる。また、ここにはハッキリと「走路端部を定めている白線は走路の一部と見なされるが、縁石は走路の一部とはみなされない。」の記載がある。ところが先にも出したようにJAF国内カートコース公認規定には「走路端部を定めている白線」の定義が無い。故にコースの端の方に引かれている白線が果たして走路端部なのかどうかは不明であり、同様に何が「縁石」なのかも不明。これはあくまでJAFの公認要件に白線を引く義務がないだけであり、任意に引かれた白線が走路端部を示している場合はもちろんあるだろう。しかし、それらが走路端部や縁石であるという確信をユーザーが得ることはできない。なにせ現代のカートコースには、コリドーやピットロードへの誘導線など様々な「白線」が引かれているのだから。
話をまとめよう。JAF国内カート競技規則やJAF国内カートコース公認規定によれば、舗装されていない部分を走行する行為はペナルティの対象ではあるが、どこまでが走路とされるかはサーキット次第、ということになる。2013年1月1日以降更新されていないJAF国内カートコース公認規定が、歴史あるサーキットや四輪コースで全日本カート選手権を開催できるようにするためにいくつかの例外を設けているため、話がややこしくなってしまっている。参加者は事前に特別規則書を含むルールを把握し、不明な点をブリーフィングで確認する必要が常にある。
そもそもサーキットは四輪脱落した時点でドライバーにとってデメリット(タイムが大幅に落ちる等)となる構造であれば、難しいことを考える必要はない。レーシングカートのレースはカート専用コースで行い、走路外はグラベルかグリーンであればそれで済む話である。
国際規則でのコース幅とトラックリミット
ちなみに、FIA Kartingの国際規格では、レーシングカートコースの幅は以下のように定義される。