TOM’Sの手によるモータースポーツとテクノロジーが融合したエンターテイメント施設「CITY CIRCUIT TOKYO BAY」。2023年10月28日のプレオープン直前に、プレス向けに用意された発表会に行ってきました!
今年5月にシティカートが閉店したため、東京23区内では唯一のモータースポーツサーキットとなったこの場所は、EVカートを基本としつつ、様々なモータースポーツ体験が可能なエンターテイメント施設だと言います。一体どのような施設なのか、そしてこれを作ったTOM’Sは何を目指しているのか。Paddock Gate独自の視点でお伝えしましょう。
MEGA WEB跡地に作られたCITY CIRCUIT TOKYO BAY
CITY CIRCUIT TOKYO BAY(シティサーキット東京ベイ)は、東京都江東区青海1丁目3に所在します。車好きの人なら、お台場にかつて存在した複合商業施設ヴィーナスフォート、そのお隣にあったMEGA WEBの跡地だといえばわかりやすいですね。かつてトヨタの体験型テーマパークがあった場所に、TOM’Sによるモータースポーツ施設ができたのですから、馴染みが良い場所だとも言えるでしょう。
元大型商業施設があった場所なだけあって、アクセスの良さは圧倒的。最寄り駅はゆりかもめ青海駅なのですが、改札を出て徒歩1分でサーキットに到着します。自家用車を持たない人や、運転免許証の無い方であっても一人でサクッと遊びに来れるサーキットなんてそうありません。世界で最も立ち寄りやすい場所にあるサーキットと言っても過言ではないでしょう。
ちなみに入口正面に駐車場がありますが、これは一般客用ではないとのこと。周囲にはいくつか有料の駐車場があり、一般のお客様はそちらを利用してほしいとのことでした。最寄りの駐車場からも近くに停められたならば徒歩1分程度で来場可能です。
屋外・屋内に2つのコースを設定 全日本カート選手権の開催も見越す
まず目を引くのが「SKY TRACK」と名付けられた屋外コースです。きれいにアスファルト舗装された広場に緩衝材を用いてコースレイアウトが設定されるタイプのサーキットで、一見するとよくある特設サーキットのようにも見えます。しかし、実はコーク奥側は意図的に起伏をつけていたり、EVカートの特性を活かすためにストップアンドゴーでテクニカルなレイアウトに設定されています。全長は400mで、同時走行は10台を想定しています。
実はこのコース、2024年以降の全日本カート選手権EV部門の開催を見越しており、JAFの規定をクリアするために全長520mまで延長可能だと言います。全日本カート選手権開催時のレイアウトは正面の駐車場も使用することになっているので、更にアグレッシブで攻めがいのあるコースになりそうです。
実際に今シーズンの全日本カートEV部門を戦った渡邉カレラ選手による全日本カートEVマシンのデモランも行われましたが、このサイズのサーキットで走るとかなりの迫力があります。向こうに都会のビル群が立ち並ぶ中、モーター音とスキール音が響きながらEVカートが走っている様子というのはとても新鮮で近代的です。
一方「LIGHTING TRACK」と名付けられる屋内コースは、コンクリート舗装された全長約50mの真四角なサーキット。ここでは主に幼児~小学生までのキッズを対象として、安全にカートを走らせる基本動作が学べるとのこと。日没後は天井からプロジェクションマッピングを用いたサーキットに変貌して、飽きのこない演出が行われるそうです。
キッズ用EVカート「EV KJ-22」はデモラン中はかなり速度を落とした設定(最高時速10km/h程度)になっていました。遠隔操作で速度調整が可能で、最高速度は28km/h。いわゆるカデットクラスのカートとはまた違った立ち位置のマシンです。初めて自動車の運転を体験するお子様にとって安心で安全な乗り物でしょう。
シミュレーターを活用したデジタルとの融合
CITY CIRCUIT TOKYO BAYの特徴として、デジタル技術との融合が挙げられます。具体的にはカートシミュレーターが設置され、e-Motorsports体験も可能になっています。
今回は実際のカートマシンを利用した大人・子供用のシミュレーターが設置されていました。またの奥には楕円体の一部分を切り取ったような、視界の98%をカバーできる超大型モニターを使うより没入感の高い装置も準備。CITY CIRCUIT TOKYO BAYを再現したコースもシミュレーター内に用意されており、実際のコースを走る前にこちらで練習することもできます。
実際にこのシミュレーターを筆者も体験しましたが、正直にいうとまだまだ改良の余地あり…だと思いました。「EVレンタルカートは重たいのでヨーが立ち上がりづらい設定にしている」と担当者は話していましたが、それにしたってステアリングを切ってから曲がるまで若干のタイムラグがあり、操作と感覚が一致しません。とはいえこのあたりは設定でどうにかなる範囲だと思われます。車体自体はステアリングやブレーキの感触も悪くないので、今後の調整に期待しましょう。
また現在は単独でのタイムアタックと対戦モードが可能ですが、将来的にはインターネットを通じて世界中の人とレースできるように進化していくそうです。
充実した施設
レンタルカート施設ということで、基本的には手ぶらで遊びに来れるように工夫されています。
M&Aで買収したヘルメットメーカーによるTOM’Sオリジナルヘルメットの貸出、オリジナルバラクラバの用意はもちろん、屋外テラスやVIPルーム、パウダールームやシャワー室まで完備しているので、一通り遊んだらさらっと汗を流すこともできます。カートの乗車には長袖長ズボンが必須のため、取材時点ではありませんでしたが、夏場にむけツナギのレンタルも行うとのこと。
週末にはキッチンカーが出店し、将来的にはBBQ施設やサウナ施設などの設置も考えているそうで、従来のレンタルカートサーキットの概念にとどまらない施設になっていくようです。
屋外サーキットでのEVカート試乗
というわけで試乗の時間がやってきました。大人用のマシン「EV KS-22」はBirel N35をベースに、左右振り分けバッテリーとモーターを搭載しています。出力は5kW、最高速度は80km/hに設定。以前試乗したBOSCHのEVカートは出力8kWだったので比べると幾分マイルドなパワーです。またタイヤはDUNLOP KE-1を履いています。KE-1はEVカートでの使用を前提として開発されていますし、以前のテストでは非常に好感触だったので実際にEVカートで使用するのが楽しみです。
コースレイアウトはシミュレーターでなんとなく予習済みなので、コースインしたらいきなりアクセル全開!試乗に用意された時間は計測3周のみだったので、急いでEV KS-22とSKY TRACKを味わっていきましょう。
走り出した瞬間に力強いトルク感で押し出されますが、ハーバーサーキット千葉インドア店で乗ったSodi RSXのような暴力的な加速感はなく、少しマイルドなイメージです。とはいえアクセルに対するレスポンスが良く、汎用4stエンジン搭載のレンタルカートに比べるとかなりラフな操作をしてもガンガン立ち上がっていくのは爽快です。マシン自体の重量感は多少感じますが、KE-1の高いグリップ力と相殺されて、かなり軽快なハンドリング。これは楽しい。スピード的にも一般的なレンタルカートぐらいなので、少し慣れれば万人が楽しんで汗を流せるマシンだと思いました。
コースもEVカートの特性を活かすため、ストップアンドゴーが多め。更地から舗装をしっかりと行ったため、極めてフラットで走りやすいコースになっています。コース奥に若干土を持って傾斜をつけているのですが、ここがテクニカルセクションになっているので、結構ドライバーの技量差が出そうな設定です。でもタイトコーナーもEVのトルク感でガンガン攻めて行けるのがいいですね。青白の鮮やかなテックプロをかすめながらお台場の景色とともに走るのはここでしかできない経験です。
ただ一方で走りながらタイムが見れる電光掲示板が無いのが寂しいです。全てが2色のテックプロで囲われているためか、コースがわからなくなった瞬間が一度だけありました。マシンもケーブルやスプロケットがむき出しになっているのがレンタルカートとしては気になります。マシン側の安全策についてはリニューアルオープン後に順次対策されていくそうですが、屋外サーキットももう少し演出があるといいなと感じます。
ちなみに11号車に乗った僕のベストタイムは31秒633でした。コースに慣れていけば30秒切りが一つの目安になっていくように思われます。
料金表
屋外コースは6分3,500円~。ナイター営業やグループでのレース走行パックも設定されます。
屋内コースは幼児~小学生向けで5分2,000円~。ナイターにはプロジェクションマッピングによる演出走行が行われます。
シミュレーターは6種類の走行モードが設定され、1回7分1,000円~。
2030年までにアジア圏で100店舗を目指す
- モータースポーツを《誰もが楽しめる》身近なエンタメにする
- モータースポーツの裾野を広げ、スター選手を育てる
- 新たなビジネスモデルを想像し、豊かなモビリティ社会を実現
CITY CIRCUIT TOKYO BAYは、TOM’Sの掲げる3つの理念とミッションをもとに作られています。
モータースポーツを身近なエンタメにするために、TOM’Sはこの圧倒的にアクセスの良い場所にサーキットを作りました。この土地は森ビル株式会社からの賃貸であり、今後の開発計画があるために、5年間限定という短い期限が設けられています。彼らは昨年11月に森ビルより土地の話を聞くと即行動に移し、約1年後の現在に実際のサーキットを作り上げています。この行動力の高さには目を見張るものがあります。
CITY CIRCUIT TOKYO BAYのベンチマークは「ラウンドワン」だと、社長の谷本勲氏は語ります。将来的には各地方の主要道路や駅前に都市型・屋内型のサーキット施設を作り、2030年までにアジア圏で100店舗の開業を目指すという、とてつもないビジョンも打ち出しました。CITY CIRCUIT TOKYO BAYはその第1号店であり、フラッグシップ店として今後活躍していくそうです。
まるでサッカーコートや野球場のようにサーキットがあれば、間違いなくより多くのレーシングドライバーが生まれていくでしょう。リアルな走行体験に加え、シミュレーターなどのデジタル技術を使ったトレーニングにより、スーパーGTやスーパーフォーミュラ、F1ドライバーをここから生み出していきたいという思いがあります。
さらに総合プロデューサー田村吾郎氏によれば、EVカートは従来よりも身体的な差を超えたモビリティ体験が可能だと言います。男女の体格差はもちろん、足が動かない、手がないなどの様々な障害を乗り越えたモータースポーツ体験をできる場として、今後展開していくとのこと。
実際に今回のプレス発表を行っている最中も、元ヴィーナスフォートの通路を通る方々が興味深そうにサーキットを眺めていました。ゆりかもめから「あれはなんだ」と見ている人たちもいました。将来的に自動運転で走る自動車が多くなり、日常生活から自動車を運転するという行為が消えるかもしれません。その時モータースポーツが存在し続けているとすれば、それはこのような施設があるおかげなのかもしれません。