2023年10月23日に行われた全日本カート選手権EV部門で、DUNLOPは新しいタイヤを持ち込んだ。それが「サスティナブル素材」を使ったタイヤだ。SDGsだサスティナブルだが叫ばれる昨今において、石油由来の原料を多く使用するタイヤもそのあり方に変化を求められている。
持続可能性を追求することは、私達の使うカートタイヤにもなにか変化があるのかもしれない。サスティナブル素材比率を高めたレーシングタイヤの開発に取り組み、モータースポーツの持続的な発展に貢献していくというDUNLOPへ取材を行った。
再生可能な素材を使ったタイヤへの挑戦
Paddock Gate:そもそもサスティナブル素材とは何なのでしょうか?
DUNLOP 菅野:ここでいうサスティナブル素材とは、基本的にはバイオマスな原材料を用いたものを指しています。植物から取れる天然由来の素材が主ですが、廃プラスチックや廃タイヤからリサイクルした素材もサスティナブル素材です。
PG:今回EV部門に持ち込んだタイヤは、サスティナブル素材をどれぐらい使用していますか?またこのタイヤを材料として再利用することはできますか?
菅野:このタイヤは材料の43%がサスティナブル素材になっています。このタイヤについてはそこまでを考えていないのですが、将来的には使ったタイヤを分解して再利用することも考えています。
PG:従来のタイヤと、サスティナブル素材のタイヤとで性能の違いはありますか?
菅野:今までのタイヤは基本的に石油由来の材料を使って製造していますが、それを徐々に天然由来の素材に置き換えています。今までタイヤに使ってこなかった材料なので、単純な置き換えは困難で、全く同じ性能を作るためには試行錯誤が必要です。ただ最近は新しい材料も出てきて、従来の性能に負けない、あるいは同等以上のものが作れるようになってきました。とはいえ、サスティナブル素材の比率を高めれば高めるほど同等のものを作るのは難しいのが現状です。しかし将来的には材料開発も進んでいくでしょう。弊社では2030年にサスティナブル材料比30%、2040年までに40%の達成を目指しています。今回のタイヤはサスティナブル素材比率を43%まで高めていますが、DGM(※CIK公認市販ハイグリップタイヤ)を性能目標値にEV部門で使用することを前提として開発しました。タイムやグリップレベル、耐久性はDGMと同等以上の仕上がりになっています。
PG:サスティナブル素材を使ってタイヤを製造することは、従来の方法と異なる点がありますか?
菅野:まだまだ天然由来の材料自体が少ないので材料調達が難しかったり、タイヤの性能を上げるために必要な材料がそもそも無かったりするので、設計面で性能とのバランスを取るのがけっこう大変です。しかし今後の技術開発でその辺りはクリアになってくるでしょう。製造面でも大変なことがあるのですが、今のところはうまく作ることができています。
PG:サスティナブル素材を使うことで製造コストが上がり価格に転嫁されるとすれば、ユーザーにとってサスティナブルではありません。コスト面ではいかがですか?
菅野:やはり天然由来素材やリサイクル素材は値段が高いので、正直比率を上げればコストは高くなります。現時点で「環境に良いタイヤができた。値段が高いけど買ってくれ!」と言っても、誰も買ってはくれないでしょう。やはりコストと性能、そして持続性のバランスをきちんと見て、商売という観点からやっていかなければなりません。ただ一方で、材料メーカーとしてもサスティナブル素材は増えていきますし、それらを大量生産する世の中の流れになってきています。それによりコストは下がっていくでしょう。将来的には今と変わらないコストでサスティナブル比率が高い製品が作れるようになるのではないかと考えています。
PG:現状のサスティナブル素材を使ったタイヤを販売するとすれば、価格は従来品と比べてどれぐらい上がりそうですか?
菅野:具体的な数字は申し上げられないですが、倍ほどにはならないです。またコストは要求性能によっても変わります。仮にスーパーGTのタイヤの要求性能を満たそうと思うとかなり難しいですが、今回のカート用タイヤに関して言えばそこまで劇的なコスト上昇にはなりません。とはいえ現時点では従来品に比べればどうしても価格が高くなってしまいます。
環境に良いことが「より良い」とされる現代では、SDGsやサスティナブルと言ったキーワードに沿った製品開発が求められている。現在でもタイヤは法律により処分方法が定められており、燃料やマテリアルとしてのリサイクル比率が比較的高い製品だ。これが天然由来素材やリサイクル素材を使うことで、地球環境にとってより負荷が少なく、モータースポーツにとっても持続可能な製品へと変わっていくのかもしれない。
ジョン・ボイド・ダンロップが1888年に空気入りタイヤの特許を取得してから135年が経った今なお、タイヤは進化を続けている。コストが下がり耐久性が上がり、私達ユーザーにとってもよりもサスティナブルになることを願いたい。