その2:形状の変化
筆者(藤松 楽久)がSuperKFに出場していたのは6年前の2010年であるため古い情報で申し訳ないのだが、その当時最強を誇っていたBSタイヤは正面から見た時、長方形というよりも楕円形に近い形をしていた。これは昨年個人的に観戦に行った瑞浪大会の時でも変化していなかったように記憶している。逆にその当時のDLやYHは本当に真四角な形状をしていたのだが、DLが劇的に進化した2012年最終戦あたりから、写真で見ても明らかなレベルでDLタイヤが丸くなっていたことを覚えている。
KFで使用しているスペシャルタイヤは一般に市販されているSLタイヤよりもずっと低い空気圧で機能させるのだが、空気を入れて膨らませている点に関しては読者の皆様が普段使用している車に装着しているタイヤとなんら変わりはない。ここで幼少期によく遊んだであろう風船を思い出してほしいのだが、読者の皆様は【四角い風船】を見たことがあるだろうか?もちろん筆者もそんなものは見たことがない。そう、中に圧力のかかっている物体は外へ外へと丸く膨らもうとするのだ。つまり、近年一般車で流行している低偏平率な断面が長方形のタイヤというのは物理的には非常に不自然な形状なのである。特にカートは規則によりラジアルタイヤの使用が禁じられているため、より一層四角いタイヤを作るのは難しくなる。(ラジアルタイヤとバイアスタイヤの違いについてはGOODYEARにてわかりやすく解説されている)タイヤの構造によって不自然に四角く保たれたタイヤが果たして丸いタイヤと同程度に荷重がかかった時に機能するだろうか?2つの行動を1度にやっているようなものなので、ちょっと難しそうだなと容易に想像できる。といっても、技術はめまぐるしく進化しているため今やこんなことを気にするのは野暮なのかもしれない。
では四角いタイヤにはどのようなメリットがあるのだろうか?カートはサスペンションがないにも関わらずコーナリング中はシャーシやリアシャフトがしなることでタイヤの内側が接地するようになっている。四角いタイヤは丸いタイヤに比べてコーナリング中に接地しているトレッド面の直径が大きくなるのだ。それはすなわち単位面積当たりの仕事量が減ることになる。例えるならば、今までコーナリング中に100人で100の仕事をしていたところが、タイヤが四角くなったことで同じ100の仕事を120人でやることになり、一人あたりの仕事量が減る。一人一人がする仕事が減ったので疲れもたまらず、耐久性に優れ最後までグリップするタイヤになるのだ。デメリットとしてタイヤの温まりが悪いので初期グリップに劣り、タイヤ剛性が落ちることもありクイックさに欠けるタイヤになる。
ここまで言えば勘のいい読者は「単純に丸くて直径の大きいタイヤを持って来ればいいじゃない!」と思うかもしれないが、2016年JAF国内カート競技規則第26条1. 3) ②に明確にタイヤ直径について決められており、フロントタイヤ、リアタイヤの外側最大直径はそれぞれ28cm、30cmである。ちなみに過去の全日本に某社は直径の異なる2種類のタイヤを持ち込んでいたという話もあるぐらい、タイヤの外形やその形状は性能に直結している。しかしながら製造に用いる金型を作るには大変なお金がかかるので、特にカートのような採算のとりにくい世界に対してそうやすやすと金型変更ができるはずもなく、一度作ると長期間変更の効かないものなのだろうと筆者は想像している。そういう意味で、今年で全日本カート選手権参戦9年目になるYHは来年あたりにフルモデルチェンジが行われ劇的な進化を迎える可能性もある。