2017全日本カート選手権OK部門第3・4戦は、史上初めて国内レーシングカートトップカテゴリーが本庄サーキットにて開催された大会であった。本庄サーキットにとって2013年の初開催以来5年目の全日本カート選手権となったのだが、初めてこのサーキットを訪れた筆者には、トップカテゴリーを開催するサーキットとしてこれでよいのだろうか、と疑問点を感じることが多かった。
高額な走行料金
本庄サーキットの走行料はレーシングカートが走るにしては高かった。レースウィークの木曜日(15分×6回)や金曜日(20分×5回)、さらには事前にカート走行日として用意された4日間の全ての走行料は1日10,000円、半日6,000円であった。これはレーシングカートコースの走行料は一般的に1日6,000円~8,000円ほどであることを考えると非常に高価である。さらにレース直前である土曜日の午前中に用意された練習走行は、15分×1回と20分×1回の合計35分間の走行で6,500円とこれまたびっくりの料金設定。なぜ木・金曜日の走行時間よりも短いにもかかわらず値段が高いのかも大変興味深い。もちろんサーキット運営は慈善活動ではなくビジネスであるから、それなりの理由があっての金額であるはずなのだが。
ところで、本庄サーキットの四輪フリー走行料金は平日15分がビジターで2,100円である。これを6月1日木曜日と同様に6回走行すると12,600円、さらにビジターの場合は初回講習料として3,500円が必要となる為、6月1日に初めて本庄を走行したドライバーの走行料は総額で16,100円となる。これと比較すれば1日10,000円の走行料は安く見えるが、この初回講習はカート向けでない(そもそも全日本出場者はJAFライセンスを所持しているため不要だと考えるが)うえに、レーシングカートレースとして開催するからにはそれにふさわしい値段設定というものが存在するはずだ。また、その値段に見合うだけのサービスが提供されていたかと聞かれれば甚だ疑問である。
慣らしが終了しない練習走行
OKエンジンの慣らし時間はKFと同じく15分というチームがほとんどのようだ。OKはレースに2台のエンジンを登録できるため、多くのドライバーはそれ以上のエンジンを持ち込み主に木曜日に慣らしを完了させる。先にも書いたように木曜日の走行時間は15分間が6セッション用意されていた。しかしここにはクラスの入れ替え時間が含まれており、実際の走行時間は2分ほど短く13分前後であった。このためエンジンの高速慣らしを行うことができず、エンジンは走行後カートスタンド上で空ぶかしを行い慣らしを完了させる必要があった。
この問題を解決するには、木曜日の走行時間を金曜日と同じく20分×5回にすればよい。この問題の原因は運営者がOKカテゴリーの開催に対して経験が無かったことが考えられるが、そもそも全日本カート選手権というシリーズ全体で、水曜日の搬入時間から日曜日の表彰式まで全てのレースフォーマットが統一されていないという問題が如実に表れたものだとも言える。統一されていれば新規参入のサーキットであっても、ある程度コースの事情に合わせ改変する必要があるかもしれないが、それに沿ってスケジュールを消化していけば正しく大会を進行することができるのだから。
見栄えの悪い走行券
フロントパネルなどに貼り付けることを求められる走行券は、サーキット運営者にとって便利な発明品である。特にレーシングカートのように比較的多くの台数が同時に走行する場面では、料金の支払いを行わずに走ってしまうマシンを発見するためには非常に有効な手段だといえる。しかしながら、普段のフリー走行ならまだしも全日本カート選手権のレースウィークに出場ドライバー以外が走行することはない。走行券を貼る必要などどこにあるのだろうか。
さらに今回の走行券には、車両のゼッケンと何ら関係のない番号が大きく表記されており、とても見栄えがいいとは考えられない。四輪フリー走行用のものをそのまま使っているのだろう、A4サイズの紙をラミネート加工したこの走行券は複雑な曲面を持つフロントパネルには全く沿わずさらに見た目を悪化させていた。
これは全てのサーキットに対して提案したいことだが、そろそろレースウィークに走行券を貼ることはやめにしてはいかがだろうか?ライブタイム配信などの観戦グッズがあるこの時代において、レースウィークは走行券ではなく代わりに計測器の装着を義務付けるべきだ。それと同時にドライバーに対してもマシンに正規のゼッケン番号を全ての練習走行で表記することを義務づけることで、サーキットは料金未払いの監視やポンダーの動作確認を可能とし、参加者はライバルの正確なタイムを把握でき、観戦者はレースウィークを通して常にかっこいい状態のマシンを見ることができるようになる。ポンダーのバッテリーの問題などからそうすることが難しいサーキットもあるのかもしれないが、少なくとも走行券という前時代的な措置はもはやトップカテゴリーにふさわしい物ではない。
メーカーブースがバラバラに配置されるパドック割
今回の本庄大会にはメーカー・インポーター・サードパーティーが全部で9社集まり、そのうちタイヤメーカーはBパドックと呼ばれる丘の上の駐車場に、それ以外は参加者と同様のAパドックに配置されていた。しかし問題はその配置場所である。
上のパドック割を見てほしい。全てのブースはひどくバラバラに配置されている。最も奥に配置されたビレルブースは、ブースがあることを知らなかった参加者もいたに違いない。彼らはなるべく一か所に、ちょうどヤマハやTripleKが配置されている区域、あるいはタイヤメーカーがいたBパドックに集めたほうが、ユーザーにとってサービスを受けやすい環境が構築されるはず。このような配置にした合理的な理由が見えず、ユーザーやメーカーをないがしろにしているようにも感じられてしまう。
β版MYLAPS Speedhiveでのリアルタイム配信
本庄大会では、普段全日本カート選手権のタイムや順位をリアルタイム配信しているRaceLiveではなく、計時システムのMYLAPSが提供するMYLAPS Speedhiveによるリアルタイム配信が行われた。これはパソコンではブラウザを、スマートフォンからはアプリを使用することでRaceLiveと同じような感覚で閲覧できるもの…だと筆者は思っていたのだが、実際にのところ個別のタイムを見るためにはユーザー登録が必要であったり、筆者の環境ではスマートフォンからブラウザで見ようとすると正常に作動しなかったり(アプリ版では正常に作動した)、時間が経過するとリザルトの一部が消失していたりと、「観戦者」の立ち位置からするとRaceLiveに比べて使いにくい物であった。
加えて2017年6月4日時点ではまだベータ版であった。ベータ版とは、正式版をリリースする前にユーザーにテストしてもらうためのサンプルのことを指す。ライブタイム配信がどこであろうと参加者や観戦者にそれがきちんと周知され、かつサービスが正常に作動すれば問題はないと筆者は考えるが、この情報は本庄サーキットホームページ内と場内アナウンスでのみ発表されており、せめて参加者・観戦者の全員に配られるパンフレットに記載すべきだった。
ちなみにMYLAPS Speedhiveは、2017年6月時点ではMYLAPS社が販売する計時ソフトの最新バージョンを使用しているサーキットであれば無料でラップタイムや区間タイムを配信することが可能である。コスト削減という観点からするとイベントを主催・運営するサーキットにとって大変望ましいソフトウェアであり、今後これが普及する可能性は高い。
点灯し続ける赤信号
上の写真は、土曜日に行われた全日本FS-125練習走行スタート直後の一コマである。ダミーグリッドに集まったドライバーたちが、オフィシャルの旗を合図に一斉にコースインした瞬間を切り取っているが、左上では赤信号が煌々と光っている。この信号機が赤色に光っていることに筆者が気が付いたタイミングがまさにこの瞬間であったわけだが、見ていた限りこのあともずっと赤く光り続けていた。単なるミスなのかもしれないが、信号機は走行中は消灯ないし青色に点灯し、セッション終了と同時に赤く点灯という当たり前のルールで運用されなければならない。
前倒しで進行される公式練習
日曜日の朝一番に行われた公式練習は、タイムスケジュールを見ると各クラス10分間ずつの走行時間が設けられ、5分間のインターバルが挟まれていた。ところが実際のインターバルは5分間より短く、コースがクリアになると次のクラスの公式練習が開始され、その結果最後に走行した全日本FS-125クラスは予定よりも5分以上早い時間に公式練習がスタートする事態となっていた。これに関しては特に何のアナウンスもなかった。早めに進行された分、直後のOK第3戦決勝の開始時間が早まるということはなく、休憩時間が数分伸びただけだった。
レース実況の無いOK第3戦決勝
OK部門第3戦決勝が行われている最中、場内ではエンジン音だけが響いていた。あまりにも静かなままレッドシグナルが消灯したので、筆者を含めコースサイドでレースを見ていた人たちは当初レースがスタートしたのだと認識できなかった。走っているドライバーは全員普通にレースしているうえ、オフィシャルが再スタートなどの旗を提示しなかったことからレースが始まっているのだと理解したが、例えばピットで他カテゴリーのレースに備えてマシンを整備するメカニックはまさかOKの決勝レースが行われているなんて思わなかっただろうし、観客席からレース観戦を行っている人たちもレースがスタートしたことはわからなかったかもしれない。ところがracingkart webで配信されている動画を見ればわかるが実況は行われており、それが場内のスピーカーで流れていなかったのだ。これは完全にコース側のミスである。レース実況は非常に高度な技術が要求されるものとはいえ、当日のレースアナウンサーである高橋英樹氏の実況はトップカテゴリーの実況として受け入れるのは困難なものではあった。しかし、それでも実況が”有る”のと”無い”のでは現場の雰囲気が大きく変わるものだと筆者は今回改めて実感した。レースアナウンサーの実況を場内放送しないということ自体も失礼な行為であり、このようなミスが今後起きないよう対策を打つ必要がある。
参加者や観戦者にとってより良いレースを
上に書いてきたこと以外にも、例えばレースクイーンが不在であったり、他のサーキットでもありがちだが電光掲示板の文字が一部欠けていたりと問題点の多い大会であった。もちろん中にはそうは思わなかった参加者も居ただろうし、現実にどのクラスでもすべての参加者が実力を出し切り素晴らしいレースが行われていた。しかし、だからと言って今回のまま続ければいいわけではない。参加者にはレースに集中できるような環境を整え、観戦者には見に来てよかったと思わせるような演出を行うことは、トップカテゴリーを開催するサーキットの責任である。全日本カート選手権は草レースではないのだ。本庄サーキットだけでなく、全国のサーキットでよりよいカートレースが行われることを切に願う。