2018全日本カート選手権SUGO大会では、ここ最近ではなかなか物珍しいのではないかと思われるものがレース直前に姿を現していた。F1から姿を消したグリッドガール?決勝レース前の盛大なパレード?いや違う。オレンジ色のパイロンだ。
ホームストレート上に置かれた3つのパイロン
この写真を見ていただければわかるように、ホームストレート上にパイロンが3つ設置されている。もちろん勘違いのないように言っておくが、このパイロンはフォーメーションラップ中のみ設置され、スタートの直後に撤去される。そのためレース中は”ほぼ”影響がないものである。このようなスタート前に置かれるパイロンは、いくつかのサーキットでは現役で採用されているものではあるが、全日本カート選手権に限って言えば今年はこのSUGOで初登場だった。しかし去年のSUGOでは採用されていないかったが、なぜ今年は置くことにしたのだろうか?
コリドーを守らせるための注意喚起
このパイロンが置かれる、という話が参加者に周知されたのは、土曜日の昼頃に行われたドライバーズブリーフィングのタイミングであった。この時点では参加者からはパイロンに関して特に質問等は無かったようだが、いざレースが始まると、これに対して疑問や必要性を投げかける声がいくつか発せられたようだ。
そもそもなぜこのようなパイロンを置くことになったのか。我々はスポーツランドSUGOの担当者から話を伺うことができた。その内容を要約すると、
2列でコリドーを守ってスタートさせるための注意喚起として設置しました。これはJAFやオーガナイザー協会から、コリドーを守り、スタートラインの25m手前にあるイエローラインを超えるまでは、カート間の距離を半車身以上開けるというスタートのルールを徹底させるように、と指示があったためです。
とのこと。しかし全日本カート選手権ではレースは赤信号の消灯と同時にスタートし、かつその時点で追い抜き可なのだから、そこにパイロンがあることは危険ではないのか?パイロンがあることスタートと同時に追い抜き可というルールが事実上無効化されるのではないか?そのような質問も投げかけてみたが、あくまでも「注意喚起のためのパイロン」であるというのが、我々が連絡を取った担当者の主張であった。
確かにパイロンの設置は可能
そもそもスタート前にホームストレート上にパイロンを置くことは可能なのか?これについては、2018年全日本カート選手権統一規則に明記されている。
2018年全日本カート選手権統一規則 OK、FS-125部門
第29条 スタート進行
スタートは、「カート競技会運営に関する規定」第28条2.に基づくローリングスタート年、次の事項が適用される。
- 省略
- 省略
- スタートが合図される前に、約1周のフォーメーションラップを行う、フォーメーションラップ中のドライバーは、2列の隊列で低速走行し、スタートラインに向かう。スタートライン25m手前に引かれたイエローラインを超えるまでは加速してはならない。
- カートがスタートラインに接近する段階で赤信号が点灯し、スタート前の最終的な隊列を形成させるために、イエローライン付近にパイロンを設置することがある。当該パイロンに故意に接触等をしたドライバーに対しては、ペナルティが課せられることがある。
- 競技長は、フォーメーションが整いイエローライン前に加速していないと判断した場合、赤信号を消灯してスタートの合図を行い、パイロンが設置されていた場合は、コース委員によっては位置したパイロンが撤去される。フォーメーションとイエローライン前での加速に問題がある場合、競技長は、フォーメーションラップがさらに1周行われることを合図するために赤信号の灯火を続ける(消灯しない)。
- 以下略
2018全日本/地方/ジュニアカート選手権統一規則 8ページより抜粋
「イエローライン付近にパイロンを設置することがある」という表現がされているので、パイロンを設置するか否かは各サーキットやオーガナイザーの判断による、ということだ。ルールブックにパイロンの設置は可能だと書いてあるのだから、今回SUGOがホームストレート上にパイロンを設置したことについては、何ら問題がなかったことがわかる。
ちなみにだが、地方選手権の場合は赤信号の消灯だけでなく、国旗の静止提示⇒振動提示という形でのスタート合図を行うことも可能とされている(2018全日本/地方/ジュニアカート選手権統一規則 25ページ)。
後方のドライバーが危険かつ不利な状況になる
しかし、まだレーススタート後に残るパイロンの危険性や、パイロンが存在している区間では追い抜きが事実上不可能になっていることへの疑問が残る。イエローラインはスタートラインの25m手前に引かれているのだから、仮に隊列がグリッドラインに沿う形で素晴らしくきれいに並び、ポールがスタートラインに差し掛かったと同時に赤信号が消灯された場合、第7列(=13番手)以降はパイロンより後ろ側にいるはずだ。実際はもっと早いタイミングでスタートの合図がある場合がほとんどなうえ、そこまできれいに隊列が形成されることも珍しいので、より多くのドライバーが不利な状況に立たされる。
上にも記載したように、2018年全日本カート選手権統一規則 OK、FS-125部門 第29条 5.には”競技長は、フォーメーションが整いイエローライン前に加速していないと判断した場合、赤信号を消灯してスタートの合図を行い、パイロンが設置されていた場合は、コース委員によっては位置したパイロンが撤去される。”とある。これは「赤信号の消灯と同時にパイロンをコース上から撤去しなければならない」というようにも捉えられる。確かにその通りのことができるのであれば、後方ドライバーが不利になることはない。しかしそのような行為は、パイロンをクレーンで吊るなどしない限り事実上不可能だ。結局のところ隊列がスタートラインを通過し、安全が確認されたタイミングでパイロンを撤去するほかない。
そもそもスタートライン前の追い抜きはルール上認められるのか
ここまでくると、多くの人々が勘違いしているだけで、実はイエローラインを超える以前には他車への追い抜きは不可能というのがルールではないのか?という疑問すら湧いてくる。ドライバーはいったいどのタイミングで追い抜きが可能になるのか。全日本カート選手権統一規則の大本となっている、2018国内競技規則及び2018国内カート競技規則集には、このように記載されている。
国内競技規則
6-5 ローリングスタート
ローリングスタートとは、計時が開始される瞬間において車両がすでに走行状態にある場合をいう。特別規則に別途規定されていない限り、車両はグリッドの順位を保ったままオフィシャルカーによりスターティンググリッドから先導される。オフィシャルカーがトラックから退去した後、スタート合図が出されても特別規則に別途規定されていない限り、スタートラインを車両が通過するまではレースはスタートしたものとはみなされない。すべての車両はスタートラインを通過するまで、グリッドの順位を保たなければならない。
2018国内競技規則 45ページより
JAF国内カート競技規則
第1条 JAF国内カート競技規則
JAF国内カート競技規則は、国内競技規則に基づく、カート競技全般に適用される特別基本規則である。
2018国内カート競技規則集 3ページより
カート競技会運営に関する規定
第28条 スタートの方法
次の3つの方法の内、いづれかのみとする。
- フライング
略- ローリング
低速で、フォーメーションラップを行ってから実施されるスタート。このスタートは、スターターがその速度、フォーメーションとイエローライン前に加速していないことに納得した場合にのみ、合図が出される。- スタンディング
略オーガナイザーはスタート方式(ローリングまたはスタンディングスタート)について当該競技会特別規則書に記載しなければならない。
全てのスタートは国旗もしくは信号によって合図されなければならない。
イエローラインはスタートラインの25m手前に引かれ、このラインを超えるまで加速することは禁止される。2018国内カート競技規則集 43ページより抜粋
国内競技規則の”スタートラインを車両が通過するまではレースはスタートしたものとはみなされない。”という部分は、国内カート競技規則集および全日本カート選手権統一規則で否定されていない。しかし現実的に全日本カート選手権のスタートシーンでオフィシャルカーが先導することはない。つまりこれの正しい解釈としては、スタート方式が特別規則(国内カート競技規則集および全日本カート選手権統一規則、さらに各大会の特別規則)により上書きされている、と考えるべきだろう。すなわち、赤信号の消灯と共に競技開始となり追い抜きが可能になる、という昨今の参加者の認識に誤りはないのだ。
常に変化するルールはルールとして正しいのか
そうなると気になるのがやはりパイロンの存在。競技中であるにもかかわらずコースのど真ん中に置かれたそれは明らかにただの障害物であり、僅か一瞬ではあるがイエローフラッグが提示される原因となってもおかしくはないようにも思われる。パイロンの設置はルール上可能かもしれないが、それは現行のスタート方式からはミスマッチしているのではないだろうか。そもそも隊列を整えるためにコリドーがあるのだから、パイロンで注意喚起する必要はどこにあるのか。コリドー違反者は後からビデオなどで判定すればよいのではないのか。
そもそもなぜスタートの方法がサーキットごとに異なるのかに対しては疑問しかない。コリドーがあったりなかったり、隊列が整うことの判断基準がその時々により変化したり、当該大会の特別規則書にも書かれていないコリドーを守れという指示があったりする。適材適所・臨機応変などといえば聞こえがいいのかもしれないが、東西合わせてもわずか11大会しか行われない全日本/地方/ジュニアカート選手権で、スタート方式を統一することがそれほどまでに難しいのだろうか。正解が常に変化し続ける中、ドライバーは何を信じてアクセルを踏み込めばいいのか。
関連情報
https://paddock-gate.com/wp/6759/